第6話 自分へ突っ込みたい
教室の扉が「ガラリ」と開いた。
入ってきたのは、黒い戦闘服に身を包んだ屈強な男だった。
年齢は40前後、鋭い目つきと、肩口の古傷が場の空気を変える。
「おはようございます。新規ワーカー研修担当の―― 郷山誠一 だ」
その落ち着いた低い声に、教室は一瞬で静寂に包まれた。
郷山は教壇に立つとタブレットを操作し、壁のスクリーンに資料を映し出す。
「まずは、ワーカー制度の基本から話す。
ワーカーにはランクがある。AからFランク。そして最上位には―― Sランク が存在する」
画面に大きくランク表が表示される。
「皆は登録されたばかりなので 全員Fランク だ。
ここから経験を積み、昇格試験を受けてランクを上げていく」
郷山は、少しだけ声に力を込める。
「最初の目標は Eランク。
Eランク以上にならないと、正式にダンジョンへ入る資格がない。
ダンジョンは危険だからな。Fランクで入れば……まあ、死ぬ」
淡々とした口調なのに、冗談ではない重みがあった。
教室全体が緊張する。
「じゃあFランクは何をするか。
──ダンジョンから追い出されて地上に逃げた弱体化モンスター、通称 ハグレ の駆除だ」
スライムや弱いコボルトのイラストが映る。
「ハグレは外の世界だと魔力がほとんどなく、弱っている。
だが、油断すると怪我する。だから経験値稼ぎにはちょうどいい相手だ」
郷山は胸を軽く叩く。
「ちなみに俺は Cランク だ。
このくらいになると、浅い階層のダンジョンなら単独で潜れる。
だが油断すれば死ぬ。どのランクも、常に命懸けだ」
その一言に、教室の空気がさらに張り詰めた。
「研修では座学と実技を行う。
座学ではモンスター学、結界システム、装備の扱い、法律を学び、
実技では模擬戦闘、基礎体力、武器の扱いを訓練する」
スライドが切り替わり、“初期武器貸し出し”の文字が表示される。
「初めての武器は貸し出す。
慣れてきたら自分に合う武器を選んで購入しろ。命を預ける道具だ。妥協はするな」
郷山は腕を組み、全員を順番に見渡した。
「以上がワーカーとしての第一歩だ。質問は?」
誰も手を挙げられない。
緊張と不安がクラスを支配していた。
孝一は……胸の中で小さく叫んでいた。
(いやこれ……普通に怖いんだけど!?
前の転生の俺、なんでワーカーになろうなんて思ったんだよ……!!)
自分へのツッコミが止まらない。




