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第59話 ダンジョンの崩壊


 ダンジョン内部へ進むにつれ、空気が重く、湿ったものに変わっていく。


 狼型モンスターの唸り声が、あちこちの通路から反響していた。


「数、増えてない……?」

南條が息を切らしながら言う。


「増えてるな。しかも統率が取れてきてる」


佐藤は周囲を警戒しつつ、こん棒を握り直した。


 通路の奥から、二メートル級の大型狼型が二匹、ほぼ同時に姿を現した。


 毛並みは荒れ、筋肉の盛り上がりが異様だ。


 低層にいる個体とは明らかに別物だった。


「来るぞ!」

 郷山の声と同時に、前線のワーカー達が迎撃に入る。


 だが、一匹が無理矢理突っ込んできた拍子に、防刃装備を着た受講生が吹き飛ばされ、壁に叩きつけられた。


「くそっ、下がれ! 負傷者優先!」


 指示が飛び、数名が撤退を開始する。


 それでも全体が崩れないのは、ベテランワーカーと講師陣が踏み止まっているからだ。


「斑鳩……」

南條は思わず名前を口にする。


「生きてるはずだ」

佐藤が即座に返す。


 郷山は一瞬だけ振り返り、二人を見る。 「心配するな。生きていれば、必ずどこかで繋がる」


 その言葉を裏付けるかのように、ダンジョン奥から、今までよりも低く、重い咆哮が響いた。


「……ボス格か」

郷山が呟く。


 狼型達の動きが、一瞬だけ止まる。

 まるで“合図”を待っているかのように。


「進むぞ」

郷山が低く告げる。


「斑鳩が落ちた場所は、この先のどこかだ」

 佐藤と南條は顔を見合わせ、無言で頷いた。


 さらにダンジョンの奥へと踏み込んでいった。




 入り口から突入したメンバー達は、多少撤退しているメンバーは居たが数だけ見れば決して少なくはなかった。


 しかし現役ワーカーは、教習所の入り口で防衛に当たっていた男女二人だけ。


 残りの大半は、すでに現場を退いた元ワーカー――つまり引退した講師達だった。


「はぁ……はぁ……」

 誰かの荒い呼吸が、通路にやけに大きく響く。


 防具の擦れる音、武器を杖代わりにつけ歩く音。

 疲労は全員に等しく蓄積していた。


 そこへ、断続的に現れる二メートルから三メートル級の狼型。


 数は多くないが、一匹一匹が重い。

 吹き飛ばされたりはするが、致命傷を負った者が居ないのは奇跡だった。


「来るぞ、右!」

 迎撃はできる。


 だが倒すたびに、確実に体力と集中力を削られていった。


 ――限界が近い。


 誰もがそう感じ始めた、その時だった。


 ゴォ……と、低い振動が足元から伝わってきた。

「……何だ?」


 壁に刻まれた亀裂が、ゆっくりと広がっていく。

 空間そのものが、内側へと引き絞られていくような感覚。


「ダンジョンが……収縮してる?」


 次の瞬間、空気の質が変わった。

 今まで感じていた、じわりと肌にまとわりつくような魔力の圧が、急激に薄れていく。

 それに反応するように、大型の狼型が苦しげな声を上げた。

「ギ……ッ」

 身体の輪郭が揺らぎ、魔力の供給を失った個体から、次々に霧散していく。

 巨体は崩れ落ちることもなく、まるで最初から存在しなかったかのように消えていった。


「……消えた?」

「ダンジョン内部からの魔力放出が止まってる……!」

 ざわめきが走る。

「撤退だ! 全員、入り口へ!」


 判断は早かった。

 この状態で内部に留まる理由はない。

 むしろ――危険だ。

 大型は消滅して行くが、通常個体は体を維持出来ている。

 ダンジョン内部がどの様に変化して内部の人間が放出されるかは、場合によって変わる。

 1番最悪な場合は、空気が抜けていく風船の様に閉じて行くと押し出されるまでにモンスターと狭い空間で戦わないといけない可能性が出て来る。


 入り口から入っていたメンバー達は、一斉に撤退を開始する。


 その少し後方で、佐藤と南條、そして郷山は足を止めていた。

「郷山さん……斑鳩は?」

南條が焦った声で聞く。


 郷山は一瞬だけ目を閉じ、冷静に言った。

「ダンジョンが完全に崩壊すれば、中に残っている人間は――生きていれば、外に弾き出される。どういった仕組みで弾き出されるけはまだ解らないが……」


「じゃあ……」

佐藤が言葉を継ぐ。


「待つしかない」

郷山ははっきりと言い切った。

「今戻れば、全員が巻き込まれる」


 壁の亀裂はさらに広がり、天井から小さな瓦礫が落ち始めている。


 南條は唇を噛みしめた。

「……生きてるって、信じるしかないって事ですね」


「そうだ」

郷山は入り口の方へ視線を向けたまま答える。


 三人は、それ以上何も言わず、ダンジョン外へと退いた。

 崩壊が進むダンジョンの奥で、

 誰かが放り出される、その瞬間を待つために。


もしちょっとでも良かったと思えたら

下の方にあるアイコンで何かアクションしてくれると非常に嬉しいです。


よろしくお願いします。

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