第55話 大型狼型との戦い
辻本は、素早く周囲を見回しながら現在の装備を確認した。
「まず武器ね。私はショートソードと、念のためのこん棒」
腰の鞘を軽く叩き、背中の簡易ホルダーに固定されたこん棒を示す。
「私はマチェットとショートソード」
瀧山はそう言いながら、酒臭い息を吐きつつも武器の状態だけは確かめていた。
「俺は……こん棒だけです」
斑鳩が申し訳なさそうに言うと、瀧山がじっと斑鳩の背中に目を向けた。
「ちょっと待ちな。アンタ、その基本装備一式、ちゃんと中まで見た?」
「え?」
「伸縮式の槍、入ってない? あれ、見た目が地味すぎて忘れがちなのよ」
酔っているとは思えないほど的確な指摘だった。
斑鳩は慌てて背負っていたワーカー用バックを開け、内側を探る。
「あ……あった」
取り出したそれは、ケースにも入っておらず、仕舞われた姿は少し大きめの折り畳み傘のようだった。
「正直、傘だと思ってました……」
「あるある。初見殺し装備よ、それ」
勝手に初見殺し装備とかレッテルを貼り瀧山が笑う。
状況を整理する。
目の前には、下半身が瓦礫に埋まり、動けない状態の大型狼型モンスター。
完全に拘束されているわけではなく、上半身と前脚はまだ自由だ。
「出て回復される前に仕留めるわよ」
辻本が低く言う。
配置はすぐに決まった。
左側を斑鳩と辻本、右側を瀧山。
狼型の死角を使い、交互に削る作戦だ。
「じゃ、最初は私が行く」
瀧山が一歩踏み出す。
瓦礫に埋もれた狼型が気配に気付き、瀧山の方へと顔を向けた。
牙を剥き、歯をガチガチと鳴らすが――距離が足りない。
「ほら、届かない」
狼型の前脚も瓦礫に邪魔され、瀧山の位置には届かない。
そのまま、マチェットが振り下ろされる。
ズン、と鈍い感触。
「――グォォォォォッ!!」
狼型が咆哮を上げる。
その瞬間。
「今!」
反対側、右側から辻本と斑鳩が同時に動く。
辻本のショートソードが、肩口を正確に切り裂く。
斑鳩は伸縮式の槍を突き出し、脇腹へ深く突き刺した。
狼型が身をよじるが、瓦礫がそれを許さない。
だが、ギリギリ狼型の口が届きそうになる
「戻る!」
すぐに距離を取る。
再び瀧山が前に出る。
狼型はまた瀧山の方へ意識を向け、咆哮し、牙を剥く。
――だが、同じことの繰り返しだった。
斬る。
吼える。
反対側から刺され、切られる。
それを何度か繰り返した末――
狼型の咆哮が、喉の奥で途切れた。
前脚が力なく落ち、身体全体がぐったりと瓦礫に沈む。
「……止まった」
斑鳩が息を詰めたまま言う。
「はい、終了」
辻本が剣を下ろす。
瀧山はマチェットを肩に担ぎ、満足そうに笑った。
「固定されてる相手なら、楽勝よ。三人とも」
瓦礫に埋もれたまま動かなくなった狼型を前に、
斑鳩はようやく、大きく息を吐いた。
――最初の一戦は、どうにか乗り切った。




