第50話 合流
斑鳩は自己治癒(中)のお陰でまだ、痛みはそこそこあったが普通に動けていた。
魔力濃度が高く自己治癒(中)の効果が上がっていたのは、本人は知らない……
ダンジョンボス部屋かもしれない場所から、瓦礫に埋まった大型の狼型に気付かれない様に出ていく。
どうやって着地をしたのか解らないが荷物も無事な様だと一安心する。
(くそ〜、藁の山じゃなくもっと何か無かったのかよ。流石にヤバすぎだろあれは、あんな高い位置からは、二度と落下はしたくない)
辻本香織視点
辻本香織は、高校卒業後ワーカーになっていた。
ワーカーになってからは、順調そのままだった。
一重に(神託)というスキルのお陰だった。
何度か危ない目にも会ってきたが、ターニングポイントでは、まるで未来予知でもあるかのように、
こっちの選択→こうなる
そっちの選択→こうなる
最悪の選択肢を防げていた。
その御蔭で、ワーカーでもソコソコの強さにもなりレベルも20近く。一般人の2倍程の身体能力
ただ、能力を過信し過ぎて怪我をしたのがきっかけでダンジョンの受付嬢をしていた。
今でも、身体が鈍るのが嫌でダンジョンに潜ったりもしている。
そんな時にたまたま、神託が来た。
今までの選択肢とは違いかなり具体的で命令的だった。
『ワーカー教習所に行きなさい。職員に周辺の異常が起きていないかを聞きなさい。
帰りは、〇〇時の電車で帰りなさい』
〇〇の部分は記憶があやふやで何時だったかは忘れたけど、時間まで指定されたのにはビックリしていた。
(『異常がないか?』なんてどう聞けばいいのか迷ったわよ。)
帰りに時間を指定された電車に乗ったけど特に何も無かったし
何かあったと言えば、久しぶりに斑鳩孝一に出会っただけだった。
(あれ?斑鳩君ちょっと覇気が無くなった?あれ?何か変?資格無しでダンジョン潜っていた時よりは真面目な感じ?)
って位だった。
しかし、今回の神託はとんでも無くヤバイ物だった。
『教習所から離れたこの場所がダンジョンと繋がるから落ちなさい、
落下する事になるから安全に降りる方法を探しなさい』
だった。
場所は、映像が見えたので何とかなったけど『安全に降りる』とか『落ちなさい』って何なのよ!しかも命令系って怒ったわよ。
そうした中、何m落ちるかも解らなかったし
どうにか探し出した。
50mのロープを木と身体に結んで、降りたクライミングなんてしたこと無かったけど、怖かったわ
でもロープでの降下は正解だった。
途中、壁面が崩れかけてヒヤリとする場面はあったものの、致命的な落下は免れた。 着地した瞬間、膝に衝撃が走り、思わず顔をしかめる。
「……っ、まあ、上出来ね」
軽い打撲程度。
ワーカーとしては誤差の範囲だ。 周囲を見回すと、そこは明らかにダンジョン内部だった。 自然物と人工物が混ざり合った、歪な空間。 天井の高さはかなりあり、崩落した瓦礫が点在している。
そして――すぐに、気配に気付いた。
(……いるわね)
瓦礫の奥。 巨大な影が、荒く呼吸をしている。
香織は音を殺して近づき、慎重に様子を確認する。 下半身が完全に瓦礫に埋まった、異常なサイズの狼型モンスター。 体長は軽く五メートルを超えている。
「ボス級……というより、成りかけ、かしら?どちらにしろ、慎重にしなくちゃね」
完全に身動きは取れていないが、油断はできない。 このサイズなら、前脚と顎だけでも即死級だ。
(正面からは無理。単独撃破は……)
神託が、いつものように選択肢を示す。
戦う → 高確率で重傷
撤退 → 後続被害が出る
〈〈〈合流する〉〉〉 → これしかない
「……合流、ね。『これしかない』ってなんなのよ。」
香織は小さく息を吐く。 神託がここまで明確に「待て」を示すのは珍しい。
(近くに、誰かいる……?)
そう考えた瞬間、記憶がよぎる。
斑鳩孝一。
神託で指定された時間に出会ったあの子。
以前とは違う、どこか“噛み合っていない”雰囲気。 それに、今回の神託で指定された場所と時間。
「……まさかね」
だが、神託は嘘をつかない。
香織は大型狼から距離を取りつつ、別の通路へと移動する。 足音を極限まで抑え、壁際を選び、慎重に。
その時だった。
――ガサッ。
微かな物音。 人のものに近い、呼吸音。
香織は即座に腰を落とし、武器に手をかける。 数秒後、通路の影から現れたのは……
「……斑鳩、君?」
薄暗がりの中、見覚えのある顔。 防具を着込み、体中に痛みを抱えているであろう男。
斑鳩孝一だった。
「電車で会った人?」
互いに数秒、言葉を失う。
こんな場所で。 こんなタイミングで。 再会するはずのない場所で。
(やっぱりね……)
香織は、内心で苦笑した。
「生きてて良かったわ。状況、最悪だけど」
「それ、こっちのセリフです……」
斑鳩は苦笑しつつも、どこかホッとしたような表情を浮かべる。
香織は、すぐに切り替えた。
「いい?今、近くに下半身が瓦礫の下敷きになっている大型狼型がいる。ボス級一歩手前。単独じゃ無理」
「……ですよね」
「でも、二人なら話が変わる」
神託が、はっきりと示す。
二人で連携 → 生存率・勝率ともに大幅上昇
香織は斑鳩を見る。
「落ちたの、偶然じゃない。たぶん私達、呼ばれてる」
斑鳩は一瞬だけ目を伏せ、それから静かに頷いた。
「……ですよね。俺も、そんな気がしてました」
瓦礫の奥で、狼型モンスターが低く唸る。
二人は視線を交わし、無言で位置取りを始めた。
――ダンジョンの底で、即席の共闘が始まろうとしていたが、まだもう1人探せと言われていた事を思い出す。




