第5話 自動車教習所っぽい所だった、
次の日、ブログに書かれていた場所に行くことにした。
着いた施設は何処か、自動車教習所の様な雰囲気がしていた。
あちこちにある案内通りに進むと目的の教室に到着した。
教室の空気は、どこか独特だった。
会社の新人研修とは違う。
張り詰めてもいないし、かといって砕けすぎてもいない。
“これから命の危険がある仕事を学ぶ場所”としての静かな緊張が漂っていた。
斑鳩孝一は、ちらりと自分の書類を見る――「斑鳩 孝一(22)」の字を見て、ため息をつきそうになるのを堪える。
自分の字とは微妙に違う。
つまり、これは本当に別の人生なのだと、じわじわ実感させられる。
「兄ちゃん若いな〜」
横から声を掛けてきたのは、どう見ても40代半ばの、ちょっと腹が出たオッサンだった。
人懐っこすぎる笑顔で、孝一に肘でツンツンしてくる。
「兄ちゃん若いってことはよ、上級ワーカー狙いだろ?
いや〜、若いのに志が高くて偉いわ! ワーカーの鑑だな!」
やたらとテンションが高い。
「あ、はぁ……まあ、その……やれるところまで頑張ってみようかなって……
上級になれたら嬉しいかな? ハハハ……」
(そもそも俺はなんでワーカーになろうとしてたんだ……?
前の俺、理由ブログに書いとけよ……!)
心の中で全力ツッコミを入れながら愛想笑いするしかない。
するとオッサンのさらに向こう側から、女性の声が飛んできた。
「ちょっと〜。若い子にいきなりプレッシャーかけないでよ。かわいそうでしょ?」
振り向くと、20代後半くらいの女性がいた。
赤茶の肩までの髪、きりっとした目つき。
外見は大人っぽいのに、言葉の端々に妙な面倒見の良さがあった。
オッサンは気まずそうに頭を掻いた。
「いやいや、悪気はねぇよ? なぁ兄ちゃん?」
「あ、いえ、大丈夫です……」
女性は孝一のほうを向いて微笑む。
「私は南條アズサ。よろしくね、孝一くん?名前合ってる?
緊張してると余計に疲れるから、ほどほどに力抜いていこう?」
「あ……はい。よろしくお願いします。名前は合ってます。」
アズサの柔らかい笑顔は、何となく救いになった。
ブラック企業時代には出会わなかった種類の優しさだった。
「よーし、あと一分で講師来るぞー」
オッサンが腕時計を見て言う。
教室全体が静まり返り、全員が前を向いた。
孝一は、自分の手のひらをじっと見る。
(……これから、俺の人生、どうなるんだろ)
三度目の人生。
二度も過労死した自分が、今度こそまともに生きられるのか。
その答えは、今日ここから始まるのだと――なんとなく、そんな気がした。




