第45話 郷山と話す
暫くすると、食堂に郷山講師が姿を現した。
「三人とも、こっちだ」
そう言われ、小さな会議室へと通される。
「話は聞いた。全員無事で何よりだ」
郷山は三人を見渡し、ゆっくりと頷いた。
「斑鳩。今回の件、お前の真面目さが生きたな。自主練用にこん棒を借りて帰ったそうじゃないか」
「え……あ、はい」
「佐藤や南條だけではなくそれを見て、他の四人も借りて帰ったらしい。結果的に、四人の方はハグレになる前のホーンラビットに遭遇したそうだが――四対一だったおかげで、余裕だったらしいぞ」
褒められつつ、他の受講生の無事も伝えられる。
(あっちは四対一でホーンラビット……こっちは三対五で狼型か)
斑鳩は、なんとも言えない気持ちになる。
「でだ」
郷山は表情を引き締めた。
「まだ全容は把握できていないが……お前たちも薄々察しているだろう。結界内にダンジョンが発生した可能性が高い」
南條と佐藤が顔を見合わせる。
「あるいは、この教習所周辺そのものがダンジョンに取り込まれかけている可能性も否定できない」
「マジか……最悪のパターンだな」
佐藤が低く唸る。
「そこでだ。戦えとは言わない」
郷山はそう前置きし、
「だが、自分自身と、近くの人間くらいは守れるようにしてほしい。ここは人里から離れているとはいえ、避難してきている人間も多い。戦力は多いに越したことはない」
そう言って、三人にワーカー装備一式を渡した。
「先に戻ってきた四人には、すでに装備を渡してある」
「なんか……燃える展開になってきたわね!」
南條の目が、完全にやる気のそれになっている。
「いや、普通にヤバい状況だからな?」
佐藤はそう言いつつも、覚悟を決めた顔だった。
「周辺の人達も避難がもう直ぐ完了予定で一時間後、この場所は放棄する」
郷山は淡々と続ける。
「檻に入れていたハグレは、すでに駆除済みだ。とりあえず、全員で近くの駅へ向かう。あちらは結界が正常に機能していることを確認している。そこに行けば安全だ」
その言葉を聞いて、三人の脳裏に同じ考えが浮かぶ。
(……さっき、そのまま駅に向かっていた方が安全だったんじゃ?)
しかし、もう後戻りはできない。
教習所は、静かに次の局面へと踏み込もうとしていた。
佐藤が、ふと真面目な顔になって郷山を呼び止めた。
「郷山さん、1時間も待つ必要があるんですか?」
郷山は一瞬だけ言葉を選ぶように視線を泳がせ、それから静かに答えた。
「一般人がそれなりにいる。今、その準備中だ。それと……少し手間取っている」
嫌な予感がして、3人は息を潜める。
「外部との連絡も不安定でな。あちこちで道路に亀裂や陥没が発生している。車両での撤退は、正直ほぼ無理だ」 「その影響で、人をまとめて動かすのに時間がかかっている。脚の速い講師がルート確認に駅まで向かって比較的安全なルートを模索していて戻ってからの出発だから1時間だ」
一瞬、沈黙。
「最悪〜……」
最初に声を上げたのは南條だった。
「結局徒歩じゃん。それに地殻変動って……それ、もうダンジョン発生ほぼ確定じゃない」
「なんでこんな日に限って当たるのよ〜……」
頭を抱えて愚痴る南條とは対照的に、斑鳩は黙り込んでいた。
(道路に亀裂、連絡不安定、結界の異常……) (この世界じゃ、それってそんなに普通の話なのか?)
転生してきてから得た知識は浅い。 だが、直感だけははっきり告げていた。
――これは、かなりヤバい状況だ。
「まあ、そういう事だ」
郷山は3人を見渡し、言葉を締める。
「準備はしておけ。覚悟もな
お前たちは生徒だが、今は“その場にいる戦力”だ」
そう言い残すと、郷山はそのまま部屋を出て行った。
扉が閉まった後、3人は顔を見合わせる。
「……さっきさ、そのまま駅に向かってた方が安全だったな」
佐藤がぽつりと呟く。
「結果論よ、それ」 南條は肩をすくめるが、声に張りはない。
「教習所への道で陥没に巻き込まれ無かったのがせめてもの救いですね」
斑鳩は一声発した後、手の中のこん棒を見つめた。
(まさか、これを“本気で使う準備”をする日が来るとはな……)
1時間後。 この場所は放棄される。
それが意味するものを、3人ともまだ正確には理解していなかった。
もし良かったら、イイネみたいなボタンがあると思うので何かリアクションしてくれると有り難いです。
時々投稿していると、本当は読んでくれてる人がいないんでは?っと不安になります。




