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第42話 結界の機能不全


三人で貸出所から自宅練習用のこん棒を借り、駅へ向かおうとしたその時だった。

ポケットの中で振動が走る。

斑鳩がスマホを取り出すと、画面には簡潔すぎる通知が表示されていた。

――人身事故発生。復旧予定未定。

「……あー、マジか」

南條が露骨に顔をしかめる。

「え〜最悪〜。今日はもう色々ありすぎて、早く帰りたいのに……」

佐藤もスマホを覗き込みながら、同じようにため息をついた。

「こりゃ長引きそうだな。最近多いんだよな、こういうの」

三人は駅へ向かう途中で足を止め、顔を見合わせる。

「どうする?」

佐藤が口を開いた。

「このまま駅で待つか、それとも教習所に戻るか。別路線に回るって手もあるけど……」

斑鳩は、自然とある方向を思い浮かべてしまい、すぐに首を振る。

別路線に行くには、途中で人気のない雑木林を抜ける必要がある。しかも、距離が結構あり1時間位はかかる。

今日、ああいう事があった直後に行く場所じゃない。

「……あの雑木林、やめた方がいい気がする」

斑鳩が慎重に言う。

「今日、野外訓練で突然襲われたばかりだし、碌でもないことになりそうな予感しかしない」

「確かに」

南條が即座に頷く。

「今日に限っては、嫌な予感しかしないわ」

佐藤も腕を組み、少し考えてから言った。

「それに、あの辺り、今は封鎖されててもおかしくないな。

ダンジョンの一時出口が出たって所の近くって話も出てるし」

三人の意見は、自然と一つにまとまる。

「じゃあ……教習所に戻ろっ」

南條が言った。

「こっちの方が距離も近いし、誰か車で来てる人がいれば乗せてもらえるかもしれない」

「それが無難だな」

佐藤も同意する。

斑鳩も、無言で頷いた。

今日はもう、無理に動く日じゃない。

三人は踵を返し、再び教習所へ向かって歩き出した。

マチェットは直ぐに貸出許可が出ないから、ただの練習用のこん棒だ。

ハグレだったらこれで十分なんだけど……



なぜか斑鳩の胸の奥では、嫌な予感が薄く、しつこく残り続けていた。



教習所へ引き返そうとした、その時だった。

ピィィィ――ッ!

斑鳩のスマホが、先ほどとは明らかに違う警告音を鳴らした。

画面いっぱいに赤い警告表示が広がる。

【緊急アラート】

ダンジョン出口出現の影響により、周辺結界の一部が機能不全

安全な場所へ速やかに避難してください。

「……え?」

一瞬、意味を理解するまでに間があった。

次の瞬間、南條が声を裏返らせる。

「えぇぇぇ!? ヤバイヤバイ!! さっきの人身事故どころじゃないじゃん!!」

「これは……洒落にならんぞ」

佐藤も表情を引き締める。

農作業で鍛えられた身体だが、さすがに余裕は消えていた。

「ハグレじゃない。ダンジョンから出たてのモンスターだ。

この状況で遭遇したら、流石に危険すぎる」

「ヤバイな……」

佐藤が、もう一度言った。

それだけ事態が切迫している証拠だった。

斑鳩も、喉がひくりと鳴るのを感じる。

今日はもう十分すぎるほど、実戦を味わった。

「……早く教習所に戻ろう。

あそこなら結界も強いし、警備も講師もいる。

こんな何もない所でモンスターと出くわしたら、洒落にならない」

「同感〜! さっさと行こ!」

南條が即座に同意する。

佐藤も無言で頷いた。

三人は、倉庫で借りた練習用のこん棒をそれぞれ構える。

マチェットはない。モンスター相手だと少し心もとない

だが、丸腰よりは遥かにましだった。

人気のない道。

風に揺れる草の音が、やけに大きく聞こえる。

「……なんか、さ」

南條が小さな声で言う。

「今日一日で、“ワーカーになる”ってどういう事か、

嫌でも思い知らされた気がしない?」

「だな」

佐藤が短く答える。

斑鳩は、前を見据えながら足を速めた。

――結界が破損している。

――どこから何が出てきてもおかしくない。

三人は言葉を交わす余裕もなく、

こん棒を握りしめたまま、早足で教習所へと向かっていった。

胸の奥に、嫌な予感だけを残しながら。


 「しかしなんでこんな辺鄙な場所に教習所を建てるのよ〜。遠すぎるんだけど!」

 早足で歩きながら、南條がついに不満を爆発させた。

 緊張で張りつめていた空気に、少しだけ人間らしい愚痴が混じる。

 「まあ、しょうがないさ」

 佐藤は肩をすくめ、苦笑いを浮かべる。

 「ハグレを檻に入れてるし、訓練は血腥いしな。こんなの住宅街のど真ん中に建てたら、苦情が止まらんだろ」

 「それは……まあ、そうだけどさ」

 南條は納得しきれない顔のまま前を向く。

 「でも本当に遠いな……」

 斑鳩も、息を整えながらぼそりと呟いた。

 「こんな状況でこの距離は堪える」

 すると佐藤が、少し声を張って励ます。

 「おいおい、こんなところで落ち込むなよ。もうちょっとだ」

 彼は指で進行方向を示した。

 「駅まで歩いて10〜15分の距離、その真ん中あたりから折り返してるだけだ。このペースなら、あと5分もかからない」

 「……5分」

 その言葉を、斑鳩は頭の中で反芻する。

 だが、その“5分”が、妙に長く感じられた。

 ――その時だった。

 草むらの奥から、低く湿った唸り声が響く。

 グルル……という、聞き覚えのある音。

 午前中に戦った、あの狼型魔物と同じ声だった。

 三人の足が、一斉に止まる。

 斑鳩は反射的にこん棒を構え、低く言った。

 「……来るぞ。みんな、構えろ」

 佐藤も南條も無言で頷き、それぞれ武器を握り直す。

 草が揺れ、視界の端で何かが動く気配が、確実に近づいていた。

 ――教習所まで、あとわずか。

 だが、その“わずか”が、命取りになりかねない距離でもあった。





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