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第4話 ダンジョンと結界と……俺の進路?


朝ごはんを食べ終え、

孝一は湯飲みを置いて、そっと立ち上がった。

(……まずは情報収集だ)

三度目の人生。

世界はほぼ日本だが、“何か”が違う。

実家の階段を上がり、自室へ戻ると、

前の人生でも使っていた型落ちノートPCが机に置かれていた。

電源を入れる。

静かな駆動音のあと、見慣れたようで少し違うOS画面が立ち上がる。

「さて……この世界の現状、教えてもらおうか」

ネットブラウザを開き、

検索窓にキーワードを入れる。

『結界 システムとは』『外にいる危険生物』『ダンジョン 日本 歴史』『モンスター 出現 頻度』

出てくる検索結果は――

驚きと納得が入り混じる内容だった。


■世界の変化:100年前。

一世紀前。

世界中、同時多発的に“穴”が発生した。

《ダンジョン洞窟群 出現》

――と、当時の新聞記事がデジタルアーカイブに残っていた。

地球の地面に、突然ぽっかりと現れた洞窟。

人々は最初、ただの地殻変動だと考えていた。

だが、調査隊が入った内部で最初に遭遇したのが――

“モンスター”と呼ばれた、未知の生命体。

・牙を持つウサギ

・甲殻に覆われたトカゲ

・人間ほどの大きさの影のような生物

どれも地球では見たことのない存在。

(マジで……“異世界ファンタジー”寄りになった日本だな)

ただし――

●モンスターは基本、ダンジョン外に出られない

理由は“魔力濃度”。

ダンジョン内部:

モンスターが生存できる濃い魔力が満ちている。

ダンジョン外(普通の地球):

魔力が極端に薄く、

モンスターが出ても 数日で自然死 する。

例外として、ダンジョン内で生存競争に負けた弱いモンスターが、

“逃げ出す”ように洞窟の外へ出てくることがある。

それらは、弱いだけあり燃費が良いようでごく稀に長い間存在し田畑を荒らしたり、噛みつき事故を起こしたりした。

(……なるほど。だから結界が必要なんだな)


■結界システムの存在

100年前、各国はダンジョン出現で大混乱に陥った。

しかし日本は、

民間と国が共同で《結界システム》を作り上げた。

町の電柱に設置される“地域結界柱”

各家庭に置かれる“簡易結界盤”

駅や学校にある“強化結界塔”

これらはすべて、

「弱いモンスターを寄せつけない」

という、非常に限定的だが非常に有用な防御壁だった。

魔法ではなく、

“魔力工学”というこの世界独自の技術が発展している。

ほとんどの人は、

結界システムがあるおかげで普通の生活を送れる。


■この世界の“22歳の斑鳩孝一”

そして――

孝一が最も驚く情報を、SNSの過去投稿で見つけた。

《俺、就職しないで“ダンジョンワーカー”になるわ!》

――投稿者:いかるがこういち

――投稿日:1か月前

「…………は?」

孝一は思わず声を出した。

SNSには、

過去の自分――この世界の自分が残した投稿がいくつもあった。

内容をまとめると、

●大学卒業後も就職せず

●家族と揉めながらも、

「田畑や山、ダンジョンでモンスター退治の仕事に就く」と宣言

●数日前には、

《新人冒険労働者登録行ってくる》

 という投稿まで残っている

どうやらこの世界では、

ダンジョン探索=普通の職業のひとつらしい。

コンビニ店員、介護職、公務員、警備員

……そして“冒険労働者ワーカー”。

給料は歩合制や危険手当も込みだが、

何より社会的に普通の仕事として認知されている。

(いや……ちょっと待てよ……

 俺、モンスター退治なんてしたことないぞ?)

PC画面の前で固まる。

前回までの人生は、

ブラック企業のIT土方で、

戦闘スキルなんてあるはずもない。

しかし、SNSの書き込みの最後の一文が――

ひっそりと孝一の背中を押すように光っていた。

《やってみなきゃ、人生変わらない》

(……前の俺、完全に迷走してたんじゃないか?

 でも……その気持ち、今の俺には分かる)

ブラック企業で二度死んだ男だ。

「普通じゃない選択肢」に惹かれる気持ちは理解できた。

孝一は、画面を閉じた。

(どうする……?

 冒険労働者を続けるか、普通に就職するか……

 今度こそ、自分で選ばないといけないんだな)

三度目の22歳。

この世界の“俺”の進路は、どうやら普通ではなかった。

だが――それでも、選ぶのは俺だ。



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