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第39話 初めての実戦


前方左をやり過ごそうと、斑鳩たちが足を止めた瞬間だった。

背後の草むらが不自然に揺れ、次の瞬間――

狼型のモンスターが、低く唸りながら一斉に躍り出た。

「来るぞ!」

郷山の叫びと同時に、状況が一気に明確になる。

前方の草むらから 3匹。

背後から回り込む形で 4匹。

合計7匹。

全員が即座に構えた武器は、いつものこん棒ではない。

草むらを進む訓練の想定で選ばれた、ナタを少し大きくしたマチェット。

刃がある分、当たりさえすれば致命傷を与えられる。


郷山は一瞬で判断した。

「前の3匹は俺がやる!

斑鳩、佐藤、南條!後方の4匹を引き受けろ!」

有無を言わせぬ声だった。

郷山は前方へ踏み込み、マチェットを横薙ぎに振るう。

刃が草ごとモンスターの胴を断ち、血飛沫が舞った。

一方、斑鳩たちは背後へと体勢を変える。

「数は多いけど、囲まれなきゃいける!」

佐藤が強がり混じりに言い、南條は静かに距離を取る。

狼型モンスターは連携しているのか、左右に散りながら間合いを詰めてくる。

ハグレとは違う、明確な“狩り”の動き。

斑鳩はマチェットを握り直し、息を整えた。

――教習所の訓練とは、明らかに違う。

これは、実戦だ。

4匹の狼型モンスターが一斉に牙を剥き、

3人と4匹の戦いが始まった。


後方から迫る四匹は、低く唸りながら左右に散り、逃げ道を塞ぐように円を描いた。

「来るぞ、落ち着け! 一匹ずつ確実にだ!」 郷山の声が前方から飛ぶ。同時に、鋭い踏み込み音と鈍い肉を断つ音が続けざまに響いた。前方三匹は、すでに郷山の射程に入っている。

後方――。

「数が多いな……」 佐藤が喉を鳴らすように呟き、マチェットを握り直す。

「左右に広がってる、囲まれる前に出るよ!」 南條は一歩前に出て、地面を蹴った。

斑鳩孝一は、視界がわずかに揺れるのを感じていた。魔力酔いだ。頭がふわりと軽く、距離感が曖昧になる。それでも、目の前の狼型モンスターの動きだけははっきりと見えていた。

――来る。

最初に飛び込んできたのは、右側の一匹。 斑鳩は半歩下がり、横薙ぎにマチェットを振る。刃が首元に食い込み、狼は空中で回転するように地面に叩きつけられた。即死だ。

「ヨシ!」 思わず声が出る。

その隙を突いて、正面の一匹が佐藤に飛びかかる。 「うおっ!?」 佐藤は慌てて腕で受けそうになるが、直前で踏みとどまり、下から斬り上げた。刃は浅かったが、腹を裂かれたモンスターは地面に転がり、暴れる。

「まだ生きてる!」 「下がって!」

南條が素早く回り込み、首の付け根を正確に斬り落とした。 血が噴き上がり、草を赤く染める。

残り二匹。

一匹は南條を警戒し、距離を取る。 もう一匹は、斑鳩をじっと見据えていた。

――視線が合った瞬間、背筋が冷える。

次の瞬間、斑鳩の足元を狙う低い突進。 反射的に跳び退き、地面を転がる。すぐに起き上がろうとするが、身体が重い。

「斑鳩!」 佐藤の叫び。

間に合わない――そう思った瞬間、横合いから刃が閃いた。 南條のマチェットが、狼の脇腹を深く抉る。

「今!」

斑鳩は歯を食いしばり、最後の一匹に踏み込んだ。 振り下ろし一閃。確かな手応え。 狼は短く鳴いて、そのまま動かなくなった。

しばらくの沈黙。

荒い呼吸だけが、草むらに残る。

「……全員無事か」 郷山が振り返り、血の付いた刃を軽く振って言う。

「なんとか……」 「虫よりはマシかも」 南條は強がるように笑うが、顔色は悪い。

斑鳩は膝に手をつき、息を整えながら思った。

僅か、1-2分の戦いだったが野外訓練初日で、これか。

教習所での練習とは、明らかに違う。 魔力の漏れ、突然の遭遇戦、判断の遅れれば死ぬ距離。

そして、遠くでまだ、別の何かが動いている気配がした。

「気を抜くな」 郷山の声が低く響く。 「ここは、もう安全な場所じゃない。まだ少し離れた所に気配はあるが仲間がやられて戸惑っているみたいだ。」



郷山の指示で、7匹の狼型魔物から魔石を引き抜く。

魔石が抜かれた瞬間、魔物の身体は音もなく崩れ、白い霧のようになって霧散していった。


斑鳩、佐藤、南條は息を整えつつ、周囲に視線を走らせる。

「本当に、いきなり来るんだな……」

佐藤が小さく呟き、南條はマチェットを握ったまま肩をすくめる。

「訓練とはいえ、洒落にならないわね」

郷山は短く頷くと、即座に指示を出した。

「ここで長居は危険だ。警戒を続けながら、教習所へ戻るぞ。」

4人は緊張を解かないまま、足音を抑えつつ来た道を引き返し始める。

草むらの揺れ、風の音、どれもが魔物の気配に思えて、斑鳩孝一は無意識にマチェットを握り直した。

――これが、野外訓練。

そう実感しながら、彼らは黙って歩き続けた。




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