第33話 元の自分を知っている人が現れた
母親に、時々ハムスターの様子を見て欲しいと頼み研修所に向かった。
母親には、いつのまに飼ったの名前は?等々聞かれたが適当に答えてしまった。名前はまだないと言ったら名前考えとくからと張り切っていた。
飼い出した事を咎められなくてよかった、、、
駅を降り、研修所へ向かうため歩き出したところだった。
「斑鳩くん!久しぶりじゃない!」
明るい声が背後から飛んできた。
振り返ると、見覚えのない女性が手を振っていた。
ワーカー装備のポーチを腰につけ、軽装の制服姿。どう見ても経験者だ。
「最近来ないと思ってたけど、真面目に研修に通ってるんだね。よしよし、いい心がけ!」
彼女は当然のように近寄ってきて、肩を軽く叩いてくる。
斑鳩孝一は「???」だった。
誰、この人?
「えっと……あの……誰でしたっけ?」
女性はその場で固まった。
「……うっわ!酷くない?」
「私よ私! ダンジョン前の受付で働いてるでしょ!」
言われても、まるでピンと来ない。
だが彼女の反応からして、どうやら元の斑鳩孝一とは面識があったらしい。
「ごめんなさい、本当に覚えてなくて……」
「はぁ……まったく。前の斑鳩くんなら、私の顔を見るだけで『今日もよろしくお願いします』って笑ってくれたのに」
どうやら完全に初対面の感覚なのは今の孝一だけのようだ。
え、前の俺、そんな社交的だったのか?
そんな疑問を抱えたまま、斑鳩は苦笑いを浮かべるしかなかった。
受付のお姉さんは、まるで昨日も会っていたかのように話し続けてくる。
「今まで、資格もないのに無謀にもダンジョン入り口付近なら余裕余裕〜って言いながら、資格が無いから毎回入り口で誓約書にサインして、通行料まで払って突っ込んでたじゃない!ヒヤヒヤさせられる身にもなってほしいわ」
斑鳩は思わずまばたきをした。
(いや……俺そんなヤバイ事してたのか...)
だが、お姉さんはその戸惑いには気づかず、さらに畳みかけるように言ってくる。
「私、何回も言ったのよ?“せめて研修所で基礎講習を受けて資格取ってEランクに昇進してからにして”って。でも聞かないんだから〜!」
笑いながら肩をすくめるお姉さん。
斑鳩は混乱していたが、どう考えても“元の斑鳩孝一”が彼女と知り合いだったとしか思えなかった。
(この世界の“俺”……どれだけ無謀だったんだよ……)
お姉さんは、ようやく斑鳩の沈黙に気づいたらしく首をかしげた。
「ん?どしたの?体調悪い?」
「いや、ちょっと……色々と整理が追いつかなくて……」
「そっか、研修始めたばっかりだもんね。無理しないでね?」
軽く笑い、ひらひらと手を振って駅のホームへ向かっていく。
斑鳩はその背中を見送りながら深くため息をついた。
(……元の俺、どんな生活送ってたんだよ。本当に)




