第32話 ハムスターの食い意地
斑鳩孝一は、
「ただいま〜」
と小声で言いながら部屋へ入った。
ドアを閉め、いつもの位置にあるケージへ視線を向ける。
……が、念話が飛んでこない。
「ん? 静かだな……寝てるのか?」
ケージを覗き込むと
ハムスターは、ケージの真ん中で 両手両足を思いきり投げ出し、大の字で寝そべっていた。
(なんだこの“ご主人様の家でくつろぐペット界の王”みたいな姿は……)
孝一の頭にそんな感想が浮かぶ。
思わず苦笑しながら、
「気楽で良い身分だな〜お前……」
と呟くと、
その瞬間、ハムスターの口がピクリと動き
念話が飛んできた。
『違うわ! お腹空いたんじゃい!!』
ばっちりツッコミ口調。
孝一は額に手を当ててため息をつく。
「……寝てるんじゃなくて餓死寸前みたいなポーズだったのかよ」
『そうよ! さっきから動く気力もないの! エネルギー切れなの!
魔石だけじゃ栄養バランスが偏るのよ! 早く、なんか食わせなさいよ!』
「偉そうだな……」
『違うの! 生命維持のための必死の訴えなの! 命の危機なの!一応、小さいオニギリ食べてたけど足りないの!』
「お前、今めちゃくちゃ元気に喋ってるけど?」
『念話は別なの!』
孝一は半眼でハムスターを見ながら、
袋をガサガサと漁り、買ってきたハムスター用のフードを取り出した。
「はいはい……ほら。カリカリだ」
ケージに入れると、ハムスターは跳ね起きて駆け寄り
『文明の利器ぃぃ!』
と叫びながら、ものすごい勢いで食べ始めた。1cm位のサイズを5個入れたら2個食べた時点で残りの3個を巣の中で隠し始めた。
その様子に、孝一は思わず天井を仰ぐ。
「……先が思いやられるわホント」
ハムスターは頬袋を膨らませながら、満足げにしていた。
『そういえば、この部屋……魔石の匂いがするんだけど?』
「はあ? あるわけないだろそんなもん。俺が知る限りじゃ昨日初めて魔石触ったんだぞ」
『いやいや、間違いなくあるって。ほら、そっち。机の方、机の!』
半信半疑で机の引き出しを開ける。
カラ……。
小さな木箱がひとつ。
中には、小指サイズの魔石が 十個、きっちり並んでいた。
「……は?」
どう見ても本物だ。昨日ホーンラビットを解体したときにもらった魔石と同じ輝き。
しかも、ハグレのホーンラビットの魔石より大きい
『ほらほら! 言った通り? さ、我に献上せよ、早く!』
「チェンジで」
『うそですごめんなさい! ちょうだい!! 一個でいいから早く早く!!』
孝一は額を押さえた。
自分の部屋に魔石がある理由も、自分が集めた記憶もない。
おそらくは、、、いや、十中八九、、、元の斑鳩孝一自身のだ、何故持っていたのかは理由は思いつかない。
考え込んでも答えは出ない。
何より、ハムスターの念話が五月蠅すぎる。
「……ほら、一個だけだぞ?」
小さな魔石をつまんでケージの中へ放る。
『別腹別腹~!』
嬉しそうに頬袋を膨らませながら、
ハムスターはヒマワリの種を食べるように魔石をサクサクと噛み砕き始めた。
「なんなんだ、この状態は、、、」
思わずそう呟きながら、斑鳩孝一は天井を見上げた。
まさか“ハムスターの飼い主”として異世界に巻き込まれるとは、昨日までの自分は想像もしなかっただろう。




