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第3話 三度目の22歳は、実家から始まった


まぶしい朝日。

天井の木目。

布団の感触。

斑鳩孝一は、ゆっくりと目を開けた。

「……ここ、実家……だよな?」

そう呟く声は、少し震えていた。

前回の人生で目を覚ました場所は、

“会社に半強制で借りさせられたワンルーム”。

格安・駅チカ・家具付き――という甘い言葉の裏に、

「辞めるのなら自力で家探し・敷金礼金・引っ越し代はどうぞ」

という、会社という檻につなぐ鎖があった。

転生前も前回も、ブラック企業で給料が少なく蓄えもない孝一はその鎖に縛られ、逃げ出すことすら考えられなかった。

だが今回は――

「本当に……俺の実家の部屋だ」

机、棚、本。

少しカビ臭い押し入れ。

大学時代から使っている安い椅子。

全部が、本物だった。

(これだけで……ずいぶん違う……)

辞めても住む場所がある。

転職へのハードルが桁違いに低くなる。

今回こそ“やり直しやすい”。

そう思ったのも束の間――

ふと、窓の外に違和感を覚えた。

カーテンを開ける。

見えるのは、ごく普通の田舎町の光景。

田んぼ、畑、遠くの工場。

どこにでもある日本の風景。

……だが、その中にほんの数%だけ“違うもの”が混ざっていた。

・街灯の根本に「軽度防護シールド」と書かれた小さな札

・配達員の腰に着いた、タブレットのようでタブレットではない謎の端末

・電線の横に並ぶ、鳥よけにしては妙に光る短い棒

ぱっと見では気づかないが、

よく見ると“この世界の日本は、俺の知る日本と少し違う”。

「……これが、神っぽい何かが言ってた“少し違う世界”か」

孝一は深く息を吸った。

すると――襖がすっと開く。

「孝一、朝ご飯できてるよ〜。早く降りておいで」

母の声だ。

完全に聞き慣れた、普通の日本のお母さん。

だが、その手に持った“鍋つかみ”だけが変だった。

――やけに光沢があり、

――タグには《耐熱耐電・簡易防護手袋》と書かれている。

(……電? 防護? 何から……?)

気になったが、母の表情は普通。

特別な世界の住人という感じはまったくない。

つまり――

この世界では、それが日常なのだ。

「ぼーっとしてどうしたの? まさか熱でもある?」

「いや……ちょっと寝ぼけてただけ」

「もう、しっかりしてよ。

 今日は“結界点検”の人来るんだから。部屋片づけといてねー」

(けっ……界……?)

言葉だけが明らかに異質なのに、

母はまるで“換気扇の掃除”くらいのテンションで言ってくる。

どうやらこの世界では、

“何かから家を守る簡易的な技術”が普通に普及しているらしい。

だが、魔王がいるわけでも

ドラゴンが飛ぶわけでもない。

せいぜい、

「軽度危険生物が稀に出る田舎」

くらいのニュアンスのようだ。

(なるほど……ガッツリ異世界じゃない。

 現代日本に、ちょっとした“魔術”が混ざった世界……か)

孝一は、胸の奥が少しだけ軽くなるのを感じた。

ブラック企業みたいな絶望的環境よりは、

ずっとマシだ。

「……悪くない。むしろ、前より生きやすそうな気がする」

だけど神っぽい何かは言った。

――「今回で最後だからね。悔いの残らないように」

(……本気で人生を立て直さなきゃいけないってことか)

布団を跳ね上げ、

孝一はゆっくりと立ち上がった。

三度目の人生。

世界は少しだけ違う。

だけど“もう一度始める”には、ちょうどいい歪み方だ。

ここから本当に、やり直しが始まる。



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