第29話 何度目かの空間
その夜。
斑鳩孝一は布団に入ったと思った瞬間、視界がふっと白く染まり、気づけばあの白い無機質な空間に立っていた。
「よ。気に入ったかい?魔石を渡す方法。」
背後から聞き慣れた 、、、 いや、まだ慣れたくもない 、、、神っぽい存在の声が響く。
「気に入るかよ!」
孝一は思わず振り返って噛みつくように言った。
「ていうか、なんで生き物なんだよ!? いや、魔石食わせればいいってのは分かるけど、よりによってハムスター!? しかも念話してくるし!」
神っぽい存在は、肩を竦めるような仕草をした。
「いやぁ……ほとんどの場合、私がそちら側に干渉できるのは“生き物に関することだけ”なんだよ。姿形ある物体を出すの、本当に苦手でね。ハムスターが入ってたあのケージくらいが限界。それ以上大きい物や複雑な構造の物を渡すのは無理。」
「無理って……神なんですよね?」
「“ぽい”存在だって言ってるじゃないか。そこ重要。」
孝一は頭を抱えた。夢なのか現実なのか、その区別さえ曖昧になる白い空間で、神っぽい存在は続ける。
「それとね、魔石も大事だけど……あのハムスター君、精神的に育てばまた新しいスキルを渡せるよ。」
「精神的に……育つ?」
孝一は嫌な予感がして眉をひそめる。
「そう。可愛い仕草をするかもしれないし、態度がでかくなるかもしれないし、もっと喋るようになるかもしれない。まあ、育成ゲームみたいなものだね!」
「俺はゲームのつもりで飼ってねぇよ!?」
神っぽい存在は愉快そうに笑った。
「まあまあ。きっと悪いようにはならないから。さあ、そろそろ」
ふわり、と視界が揺らぐ。
「おやすみ、斑鳩孝一。」
その言葉を最後に、白が音もなく崩れ落ちた。
気がつくと、自分のベッドの上だった。
天井の木目がいつもより現実味を持って迫ってくる。
隣のケージでは、例のハムスターが寝息を立てて丸まっていた。
その姿は、どう見てもただの可愛いハムスターだった。
本当に、これでいいのか俺の異世界生活。
孝一は、布団の上でぼそりと呟いた。




