第27話 これが魔石の献上方法か、、、!
家の玄関を開けた瞬間、ふわりと出汁の匂いが鼻をくすぐった。夕飯の仕込みをしている母さんの気配だ。
「ただいまー」
「あら、おかえり。今日も狩りの手伝いしてきたの?」
「うん。ほら、これ……ホーンラビットの肉。少しだけど」
差し出すと、母さんは目を丸くし、すぐに笑顔になった。
「まぁ!いいじゃないの。唐揚げにしようか、油の温度ちょうど上げるところだったのよ」
どうやら母さんのテンションが一段上がったらしく、すぐにキッチンへ引っ込んでしまった。
俺は靴を脱ぎながら、心のどこかで「今日は色々あったし、休もう」と思った。体もほどよく疲れている。
二階へ上がり、自分の部屋の扉を開けたそこで、思考が一瞬停止した。
「…………は?」
部屋の中央、机の前辺り。
見覚えのないハムスターのケージが置いてある。
いや、ケージがあるだけならまだしも、中には丸っこい茶色いハムスターが、しれっと中で座っていた。
頭の中に「???」が無限に湧いてきて、俺は目頭を指で揉んだ。
見間違いかとまばたきしても、ケージの中のハムスターはピクリと動くだけで、堂々たる存在感を放っている。
「……何これ?」
誰に聞くでもなくつぶやき、部屋を出て母さんに確認しに行こうとしたその瞬間――
頭の中に声が響いた。
『……余に、魔石を献上せよ』
若干、偉そう。
でも、妙に可愛い声。
「……え? 今、俺の頭の中に誰か喋んなかった?」
あたりを見回すが、部屋には俺とケージのハムスターだけ。
もう一度ケージを見ると、ハムスターがこちらに正面を向いて、まるで話しかけるタイミングを計っていたように、ちょこんと前足を揃えた。
恐る恐る近づき、小声で話しかけてみる。
「……もしかして、お前か?」
『余に魔石を献上せよ』
確定した。
ハムスターがしゃべってる(※頭の中に)
戸惑いながらも、今日ホーンラビットを解体して手に入れた魔石、小指の先より小さい大きさのやつをポケットから取り出す。
ケージの隙間からそっと差し入れると、ハムスターはひまわりの種でも食べるような勢いで、魔石にかぶりついた。
カリッ……カリカリカリ……。
まさか魔石がそんな食べ方されるなんて知らなかった俺は、思わず固まった。
そして、ハムスターの頬がほんのり光り、丸っこい瞳がこちらを見上げる。
『……よし。この程度なら前菜である』
前菜……?
俺は思わず天井を見上げる。
めちゃくちゃ面倒な存在が家に増えた気がする。




