第24話 解体の種類
◆ 解体講習の開始
先日話した通りと、郷山が教室の前に立ちながら説明を始めた。
「今日は、ハグレ討伐者、そして後々ダンジョンに入ることになる者たちにとって避けては通れない“解体”についての講習を行う。」
教室がざわつく。
佐藤も、いつも落ち着いている彼にしては珍しく、若干顔が引きつっている。
南條なんて、腕を抱えて小刻みに震えている。昨日まであんなに血まみれで戦っていたくせに。
郷山は淡々と続ける。
「まず、基本的な処理方法は三種類ある。」
1:魔石を砕いて“消滅”させる方法
「ハグレもモンスターも、体内に“魔石”を持っている。これを砕くと、その個体は一瞬で消滅する。
ハグレは弱体化されているので魔石は小さいが……砕けなくはない。」
説明が終わるか終わらないかのうちに、受講生達のあちこちから声が上がる。
「消滅でいいじゃん!」
「グロいのは嫌だ!」
「なんでわざわざ解体すんの?」
郷山はその反応も予想していたようで、淡々と次を続ける。
2:素材を得るために“解体”する方法
「体内に魔石を残したまま解体すれば、素材が手に入る。
毛皮、爪、牙、肉……ものによっては高値で売れる。何が価値ある素材かは各自で調べておけ。」
すると、今度は逆に教室が明るくなる。
「やっぱ解体必要だわ!」
「高額って言ったよな!?」
「肉とか美味いのかな?」
人間とは実に現金なものだ。
3:強敵から逃げられない場合の“魔石抜き”
「これはダンジョンに入るようになってからの話だが、もし逃げられない強敵に遭遇した場合……
傷口から腕を突っ込み、魔石を引き抜けば、砕いた時と同様に消滅する。覚えておけ。」
教室は静まり返る。
佐藤が小声でつぶやく。「……俺でも手突っ込むのは無理かもなぁ……」
南條は顔を青くしながら「ちょっ……その説明いらなかった……」と肩をすくめている。
斑鳩孝一は、どこか遠い目をしていた。
(……やれるのか、俺。本当に……)
しかし逃げることはできない。
この講習を受け続ける限り、避けては通れないことだ。
郷山は教室全体を見渡し、最後にきっぱりと言った。
「以上だ。午後は実際にやってもらう。覚悟しておけ。」
郷山の説明のあと、スクリーンに次々とモンスターの図が映し出される。
それぞれの体内にある魔石の位置が赤い点で示され、形や大きさもさまざまだった。
「まず基本的な魔石の位置は“種族ごとにほぼ固定”されている。ただし、個体差が出る場合もあるから注意してくれ」
そう言って郷山は、ホーンラビットの透視図を指し示す。
「ホーンラビットの場合、胸部のやや左寄り。大きさは小指の先ほどで、弱体化しているハグレ個体だとさらに半分程度になる。
倒した後、体温が残っている間に触診すると、コリっと固い感触がある。これが魔石だ」
さらにスライドが切り替わり、今度はウルフ系モンスターの画像。
「次にウルフ系。こっちは胸の中心より少し深い位置にある。大きい個体は梅干し程度のサイズだ。
これを狙えるようになったら、前衛としてはまあまあ一人前だな」
受講者たちはノートを取りつつも、どこか顔が引きつっている。
血を見る講習の前に、このリアルな説明は精神的ダメージが大きいようだ。
「倒したかどうかの確認方法だが――」
郷山は続ける。
「魔石が完全に砕ければ、消滅する。だが砕き損ねれば“時間差で暴走する事”がある。
暴走といっても、ハグレの場合はせいぜい痙攣する程度だが、ダンジョン内の個体は最期に突進してきたり、飛びかかったりする。
だから“確認”は絶対に怠るな」
南條アズサは肩をすくめて小声で言う。
「…聞けば聞くほどグロいんだけど」
佐藤タケシは腕を組み、真剣な顔で頷いている。
「こういう情報は大事だ。」
郷山はさらに続ける。
「この後は実物を使って位置を確認してもらう。
まだ切ったりはしないが、直接触ることには慣れておけ。今日はその第一歩だ」
教室全体が、ざわ……と沈黙混じりの緊張に包まれた。




