第2話 2度目の死
■第2話
「二度目の死」
転生後の一週間――斑鳩孝一の人生は、順調そのものだった。
結局会社に出勤してしまっていたが.....
「知ってる……このタスクの流れも、仕様も、地雷になる部分も全部。
前世で地獄みたいに経験したからな……!」
同僚たちは驚いたように彼を見る。
「斑鳩くんって、こんなに仕事できたっけ……?」
「ミスゼロじゃん……鬼の新人かよ……」
孝一は淡々と仕事をこなした。
効率化、ショートカット、トラブル回避――
かつて六十歳まで培った“ブラック企業サバイバル知識”は、素晴らしい武器となった。
(いいぞ……これなら、前よりはるかにマシな人生を……!)
しかし――光はすぐに影へ変わった。
■ブラック企業の“嗅覚”
一週間後。
「斑鳩、お前……出来るな」
直属の上司が、妙に柔らかい声で肩を叩いてきた。
その笑顔の裏にあったのは、
“使い潰せる新人”を見つけた獣の気配だった。
(あ、やばい……このパターン……!)
気づいたときには遅かった。
・深夜2時のシステム障害の常時対応
・上司の仕事の丸投げ
・新人教育の押しつけ
・休日出勤の「当然だよな?」圧力
・納期を1/3に圧縮されたプロジェクトの担当
孝一の立てた「やり直しの計画」は、あっという間に瓦解した。
■自分の能力の罠
(……でも、俺なら……前より若いし、まだ頑張れる……!)
最初の転生から6年。
どうしても“仕事ができてしまう自分”に酔ってしまった。
「斑鳩なら出来るよな?」
「今日も徹夜で頼む」
「若いんだから余裕だろ」
――はい。
――大丈夫です。
気づけば自分の口が、自動的にそう答えていた。
寝不足で思考力は低下し、判断力は消え、
“拒否する”という当たり前の選択肢は霧のように消えていた。
■そして、二度目の死
28歳――
前世より三十二年も早く、孝一は再び倒れた。
残業で48時間働き続け、飲んだ缶コーヒーは15本。
ふらつく足取りでサーバールームに向かう途中。
(……なんで……だ? やり直したはず、なのに……)
視界が暗くなる。
床に崩れ落ちる直前、
キーボードに落ちる自分の汗の音が、やけに鮮明に聞こえた。
――その瞬間、世界が黒く溶けた。
■白い空間(再び)
「……また、ここか……」
孝一はうつ伏せの体勢から、ゆっくりと顔を上げた。
神のような存在が、前回よりも呆れた表情で立っていた。
「いや、なんで転生前より悲惨になってるの……?
前世の知識を持ってたんだよね? 普通なら転職するでしょ」
孝一は床に正座した。
「無理でした……!」
空間に響くほどの声で叫ぶ。
「ついつい……仕事が出来る自分に酔ってしまって……!」
「“自分ならなんとかなる”って錯覚してしまって……!」
「気づいたら寝不足で頭働かなくて……流されるまま働き続けて……!」
「どうしてこうなるんだ……俺……!」
神のような存在は長い溜息をついた。
「しょうがないなぁ……」
呆れたような、でもどこか優しい声だった。
「今回は22歳に戻すけど……ちょっと違う世界に飛ばしてあげる」
「違う……世界……?」
「うん。
現実世界とファンタジーが混ざったみたいな世界。
魔法もモンスターもあるし、でも普通にコンビニもスーパーもある」
存在は指を弾くと、小さな光の粒がふわりと宙に舞った。
「今回で最後だから。
悔いの残らないように……“自分のための人生”を生きておいで」
光が孝一を包む。
(……今度こそ……)
世界が、三度目の転生へ向けて弾けた。




