第18話 あれから2週間
あれから二週間が経った。
家では、まだふとした瞬間に胸が締め付けられるような感覚がこみ上げる。
朝、食卓で母親が味噌汁をよそっている姿。
夜、父親がテレビを観ながら「おう、帰ったか」と言ってくれる声。
前世では、二度とも過労死で終わった。
誰にも看取られず、誰にも労われず、「働けるうちは働け」と搾り取られて終わった人生だった。
だからこそ、こんな当たり前の日常が、どうしても胸に刺さる。
気づけば、食卓で涙がぽろりと落ちていて、母親が「ちょっと、大丈夫?」と心配そうに覗き込む。
孝一は「なんでもないよ」と笑ってごまかすが、胸の奥がじんわり温かく、そして痛い。
講習のほうはというと、こちらも波はある。
毎朝行くのが億劫になる日があり、布団の中で「今日は無理かも」と天井を眺める時間が長くなる。
気づけば遅刻ぎりぎりの時間になり、慌てて家を飛び出すこともしばしばだった。
――それでも、辞めずに続けている。
理由はよく分からない。
解らないと言えば、まだ魔石の献上もどうすればいいのかも解らない、魔石と言うのもハグレやダンジョン内モンスターが持っているらしいが実物はまだ見たこともない
なんといっても元の自分が自分を変えたくて来たのは確かだが、思っていたよりきつい。
講師の郷山誠一は相変わらず厳しいし、講習の最後には毎回ハグレと対峙させられる。
最初の数日は、檻に入る前から膝が震えた。
だが、不思議と慣れてきた。
佐藤タケシは相変わらず明るく気さくで、何かと気にかけてくれる。
南條アズサはサバサバしているが、雑談になると妙に話が合うし、ハグレの捕獲講習が近づいてくるたびに「マジで嫌なんだけど〜」と愚痴り合う相手にもなった。
そんな二人がいてくれたからかもしれない。
体のほうも、あの神っぽい存在からもらった《自己治癒(小)》のおかげなのか、打撲や捻挫はほぼ一晩で治るようになった。
それも講習を続ける支えになったのは間違いない。
とはいえ、心がついていかない瞬間もある。
講習所に向かう足取りが重く、
「俺、なんでまだ続けてるんだろう…」
そんな弱音が頭の隅で生まれる日もある。
それでも。
教室に入ると、佐藤とアズサが「おはよ!」と手を振ってくれる。
その声を聞くと、なんとなく頑張れる気がした。
――気づけば、2週間続いていた。
この世界で、生きる為に。
そして、変わる為に。
孝一はまた、講習所の扉を開けるのだった。




