第13話 南條の出番
「少々頼りない感じだが……取りあえず倒せたな」
講師は腕を組んだまま、ほんの少しだけ満足げに頷いた。
「次は南條だな。よし入れ……ん? お前、武器二本持ってるのか?」
呼ばれた南條は、長い髪を後ろでざっくり結び、無言のまま檻へ向かう。
手にはいつの間に用意したのか、50cmほどの短い棒が二本。
彼女は普段は落ち着いた雰囲気の女性だが、今は何かを噛みしめるように眉間に力が入っている。
講師は少し警戒しつつも、「まあいい、準備できてるなら入れ」と促した。
南條は小さく息を吐き、檻の扉をくぐった。
そして――聞こえるか聞こえないかの声で呟く。
「……私の……車……返せ……」
怒りを圧縮したような声だった。
ハグレが唸り声を上げ、飛び掛かろうとする瞬間――
南條が先に動いた。
その動きは素早く、しなやかで、女性らしい体格なのに妙に力強い。
二本の棒が同時に振り下ろされ、ハグレの顔面や胴体に正確に叩き込まれていく。
ゴッ! ガンッ! ドッ!
最初の五秒程で、勝負はほぼついていた。
だが南條の表情は、まるで何かスイッチが入ったかのように無表情で――
目だけが怒りに燃えていた。
「この……バカ犬がぁぁぁ!! 修理代……!! 返せぇぇ!!!」
普段の冷静な南條からは想像できない声だった。
南條は細い腕とは思えない勢いで棒を振り続ける。
講師が慌てて止めに入るまで、1分近く殴り続けた。
檻の壁にはハグレの血飛沫が散り、床にはもう動かない塊。
「南條! もういい! もう倒れてる! やめろ!!」
講師が背後から腕を抱えて引き離すと、南條はようやく棒を落とした。
呼吸は荒いが、その目にはまだ怒りの残滓が宿っている。
他の受講生たちは、一斉に身を引きながら囁き合う。
「南條さん……やば……」
「止めなかったらどうなってたんだ……」
「車壊されたってレベルじゃねぇ……」
完全にドン引きである。
南條はそんな視線を気にも留めず、乱れた髪を整えながら、
「……はぁ……スッキリした……」
と、小さく呟いた。




