第12話 初めての敵との対峙
入るまではよかった。だが、一歩踏み込んだ瞬間――足がすくんで、それ以上前に進めなくなった。
目の前では、檻の中のハグレがよだれを垂らし、こちらを睨みつけている。
もちろん、ハグレは人間の躊躇を待ってはくれない。
ギャッと喚き声を上げながら、孝一めがけて飛びかかってきた。
反射的に、孝一は手にしていた棒を振り上げた。
“振り上げた”というより、“振り上がってしまった”と言ったほうが近い。
適当に振られた棒は、偶然ハグレの胴に当たった。
だが、それだけでは倒れない。
ハグレは横に弾かれただけで、すぐに体勢を立て直そうとしていた。
「っ……!」
手袋をしていたとはいえ、野球のバットで野球のボール以外の大きいボールを打った時のように、手首を直撃した。もちろん、ボールではないのでその衝撃は比較出来ない位だ
一撃でジンと痺れ、まともに力が入らない。
それでも棒を手放さずに済んだのは、待ち時間に農家のオッサンから教えてもらった“左手に紐で巻き付ける”という対策のおかげだった。
しかし――。
片方の手首は完全におかしくなり、力は半減。
もうさっきのような全力のスイングはできそうにない。
すると檻の外から、佐藤のオッサンが怒鳴った。
「叩きつけろ! それか蹴っ飛ばせ!」
敵はまだ倒れていない。
ハグレは横に転がりながら、こちらを再び睨んだ。
「……っ!」
孝一は決断し、横に飛んだハグレに向けて――全力で蹴り上げた。
鈍い音が響く。
ハグレの首が不自然な方向に曲がった。
そのまま動かなくなる。
息が詰まるような瞬間だった。
だが、意外なことに“罪悪感”は湧いてこなかった。
それよりも――。
圧倒的な“恐怖”から解放されたという実感が、胸の奥からこみ上げてきた。




