第10話 戦闘系農家
佐藤が棒を手に取るかと思った、その瞬間だった。
「防具あるし……この棒は今回は止めときますわ」
——場が静まり返った。
受講生どころか、講師の郷山まで「は?」という顔をしている。
「おい……油断してると他の受講生みたいにやられるぞ?」
郷山は慌てて注意するが、佐藤はニコニコしながら手をヒラヒラさせた。
「大丈夫ですよ先生。普段、畑で倒してるハグレなんて、防具どころかキバ剥き出しですからねぇ。
たま〜に軍手だけで相手することもありますし、こんなの楽なもんですわ」
受講生たち(……軍手?)
講師(……軍手で?)
孝一(今なんて言った? 軍手だけで怪物と素手バトルしてるって言った?)
そこまで言われてしまっては、講師ももう止められない。
「……わかった。自己責任だぞ。無茶すんなよ」
「へへっ、お任せを」
佐藤は全く緊張感のない足取りで檻に入り、扉が閉まる。
次の瞬間——
「キシャァァァ!!」
ホーンラビットが牙を剥き、勢いよく飛びかかってきた。
受講生たちが息を呑む。
だが佐藤は——
まるで日常の作業でもするかのような動きで、その頭部を片手でガシッと掴むと、
ドンッ!!
地面に軽く叩きつけた。
軽く、のはずなのに、ハグレは地面でバウンドし、しばらくピクピクと痙攣していたが……やがて動かなくなる。
檻の前は完全に静寂。
講師が小声で呟く。
「……よし、そこまで。佐藤、出てきていいぞ」
佐藤は腹の出た体型を揺らしながら、頭をポリポリ掻きつつ外へ出る。
「へへ……やっぱり慣れた相手やと楽ですねぇ」
講師は感心というより呆れという状態だった。
「初日にハグレ倒す者は何人かいたが……武器も持たずに倒したのはお前が初めてだ。
……お前、ほんとに農家か?」
佐藤は嬉しそうにお腹を撫でながら、
「農家っちゅうんは、意外と戦闘職なんですよ」
と笑ってみせる。
周囲の受講生たちはと言えば——
(え、無理無理無理無理……)
(あんなん人間の動きじゃないだろ……)
(あれと同じ種族ってマジで?)
(今日は帰りたい……)
と口々にぼやいたり、完全に目が点になっていた。
孝一も例外ではない。
(いや……無理だろこれ……)
——だが次は、自分の番が近づいてくる。




