第四章
俺たちはギルドの登録手続きを終えた。
受付のオヤジは怒りを隠そうともしなかったが、ベルーナが自分の【能力鑑定書】を見せ、理不尽なほど高いステータスで黙らせたおかげで、どうにか罪人扱いされて辺境送りになるのは免れた。
……とはいえ、壊した門の修理費、二十枚の金貨はきっちり俺たちの借金として残ったけど。
俺の能力値はというと、まさかの一般冒険者未満。情けないけど、自分でも認めざるを得ないほど弱い。
けど、ヒラリィちゃんが必死に取りなしてくれたおかげで、オヤジは渋々俺を「ギルドの臨時助手」として雇ってくれることになった。
ベルーナはというと、町の教会で神職に就くつもりらしい。まあ本物の女神様だし、神様関係の仕事なら慣れたものなんだろう。
だから今は、彼女と一緒に教会まで行く予定だ。
「渡辺さん」
出発しようとしたとき、ヒラリィちゃんがオヤジの姿を確認してから、甘い声で俺を呼び止めた。
「私、毎日夕方の六時に仕事が終わるんです。一緒に帰りませんか?」
そして耳元に顔を寄せ、小さな声で囁く。
「旦那様、まだ泊まる場所が決まってないなら……ベルーナお姉さんと一緒に、私の部屋に来てもいいですよ。お金、節約できますし。二十金貨、返すの大変でしょう? 父の部屋とは少し離れてるから、バレないと思います」
――なんて純粋で、優しい子なんだ。
たしかに俺たちはもう夫婦になっていて、俺のスキルのせいで彼女は妊娠している。けど、初日から女の子の部屋に転がり込むのは……男としてどうなんだ。
情けなくても、せめてプライドぐらいは持ちたい。……とはいえ、本当に今の俺は一枚の銅貨すら持っていない。夜までにどうするか考えよう。
「約束するよ。用事が済んだら、必ず迎えに来る」
俺はそう言って、彼女の笑顔に見とれた。
これが、俺の運命の妻。なんて幸運なんだろう。こんな良い子を俺なんかに任せていいのか。
――いや、守ってみせる。全力で。
そして、隣のベルーナにも視線を向ける。もちろんベルーナのことも大切にする。
けど、女神様である彼女に、俺の庇護なんて必要ないだろうけど……。
町はそれほど大きくなく、中央の通りがまさに町の心臓部だった。
ヨーロッパの街のように、重要な施設はすべてこの大通り沿いに並んでいる。
ギルドは日本で言えば「区役所+職業安定所」といったところで、教会は「神社・病院・寺院・学校」などの機能を併せ持っている。
この町の中心にある教会は、主に結婚や医療、教育を司り、郊外には葬儀などを担当する別の教会があるそうだ。
ベルーナは教会の門をくぐった瞬間、まるで我が家に帰ってきたかのように慣れた様子だった。
……そりゃそうだ。女神様だし、どの世界の教会もホームみたいなもんだろう。
彼女に連れられて、俺は教会の神父の前に通された。
ベルーナが能力鑑定書を差し出すと、神父の顔がギルドのオヤジと全く同じ反応をした。
まあ当然だ。女神の能力なんて、反則レベルなんだから。
「おかしいな……ちゃんと直したはずなんだけど」
ベルーナが小声でつぶやく。
許可を得て覗き込むと、たしかに彼女の鑑定書は修正されていた。興味や趣味の項目は消され、能力値も“表示不能”から“表示可能”に。
でもSSSだった数値をS+に下げても、普通の人間から見れば十分化け物クラスだ。
「……あなたは、女神様から遣わされた御使いでいらっしゃいますか?」
神父がその場に跪く。
「まぁ、そんなところね」
ベルーナは曖昧に答えた。ここで詳しく説明したら身バレするし、騒ぎになるのは目に見えている。
ふと、俺は礼拝堂の奥に目をやった。そこには女神像が一体、静かに立っていた。
どこかベルーナに似ている。でも微妙に違う――もしかして、親族か?
「私はしばらくここで勤めるつもりです」
ベルーナがさらっと言うと、神父は慌てた様子で答えた。
「それでしたら、ぜひ王都の教会へ。教皇様があなたにお会いしたいと仰っております。この町では、あなたに相応しい職は……」
「ここの医療や教育の人手、足りてないでしょう?」
神父が小さく頷くと、彼女は微笑んだ。
「なら、それでいいわ。相応の報酬をいただければそれで十分です」
「……では、月給二十金貨でいかがでしょう? これが教会で出せる最高額です」
神父が冷や汗を拭う。
二十金貨――つまり、一ヶ月働けば門の修理費を返せるってことだ。
ベルーナはちらりと俺を見た。俺が反対しないのを確認して、静かに頷いた。
なぜ俺の意見を聞くのかは分からない。けど、彼女がこうして働こうとしているのは、俺がこの世界に連れてきてしまったせいだ。
彼女を幸せにするのは、男としての責任だ。
「今日から働いてもいいですか?」
ベルーナの言葉に、神父は大喜びで頷いた。
その間、俺は後ろの神像に目を向け、アメリカ映画で見たような祈りのポーズを取った。
昔からこういうのが好きなんだ。神社を見かけると、つい手を合わせたくなる。多分、生まれつき信心深いんだろう。
でも、ベルーナが俺の手を取って止めた。
「そこは“結婚”を司る場所。その石像は……私の妹なの」
小声でそう言いながら、少し困った顔をする。
「今は、彼女に私とあなたの関係を知られたくないの」
「……わかった」
俺は祈りをやめ、代わりに軽く一礼だけして立ち去った。
そのとき、女神像の口元がわずかに動いたような気がした。
笑っていた……ような? いや、最初から笑顔の像だったのかもしれない。
きっと気のせいだろう。そう思いながら、ベルーナと共に大広間を後にした。
同行していた神父は、特に何も気づいていないようだった。
そのあと、ベルーナに付き添って、医療と教育の仕事をざっと見て回った。
この世界には〈治癒魔法〉という便利なものがあるらしく、ほとんどの病気はそれで治ってしまうらしい。
ただし、死者を生き返らせたり寿命を延ばしたりはできない。だからこそ、人々は普通の病に悩まされることも少ない。――便利だけど、完璧ではない。まさに中途半端に“ちょうどいい”世界だ。
教育の方では、なんとベルーナだけでなく、俺までこの教会に教師として雇われた。
この世界の子どもたちは十代になっても、まだ正確な加減乗除すら満足にできない。
それも無理はない。魔法の存在が人間の生活を支えているぶん、科学の発展が極端に遅れているからだ。
俺はもともと金融管理と哲学を学んでいたし、少しでもこの世界の役に立てるなら、それも悪くないと思った。
昼過ぎ、神父さんの招待で、教会の食堂で簡単な昼食をご馳走になった。
ゆで野菜とじゃがいもが中心の料理で、なんだかイギリスの家庭料理を思い出す。
……味は、正直かなり薄い。けど、この世界が中世のような時代だと考えれば仕方ないか。
今度は自分で作ってみよう――そんなことを考えながらスプーンを置くと、ベルーナは淡々と食事を終えていた。
さすが女神様、感情のコントロールが完璧だ。……と思ったら、耳まで真っ赤だ。熱でもあるのか?
俺が食べているあいだ、彼女はときどきこちらを見ていた気がする。
もしかして、俺の考えてることまで読まれてる? いや、女神だし、それくらい当然か。
そういえば、日本で読んだことのある漫画を思い出した。
大学生と女神の恋を描いた話だったけど、その女神はいつも他人のことばかり考えて、自分の気持ちはまったく表に出さない。
男は男で、優しそうな顔をしながら、結局は彼女に依存してばかり。
――ああいう「与えられるだけ」の関係って、違うと思う。
愛って、本来はお互いに与え合うものだ。
そして、その愛が形になったもの――それが子どもなんだ。
親という存在が偉大なのは、子どもを持つことで未来を託し、希望をつなぐからだと思う。
子どもは人類の未来であり、希望そのものだ。
だから俺は昔から子どもが好きだし、ニートになってからは特に、結婚や家族を描いたハッピーエンドのギャルゲーばかり探していた。
けど、そういう作品は本当に少ない。
ほとんどのゲームは高校生が主人公。18禁なのに、高校生っておかしいだろ……?
現実は皮肉だ。少し視点を変えれば、もっと良くなるのに、誰も挑戦しようとしない。
俺は思わず隣のベルーナの手を取った。
この世界に一緒に来てくれたことを、心の底から感謝した。
たった二日間しか経っていないのに、日本でニートをしていた頃より、ずっと幸せだと感じる。
もちろん、両親のことは恋しい。
一人っ子なのに、親孝行もできずにここへ来てしまって……本当にごめんなさい。
でも、きっと大丈夫。
俺はこれから幸せに生きていけると思う。
そう信じている。
ベルーナは何も言わず、そっと俺の肩に寄りかかってきた。
ふわりと漂う彼女の香り――一生嗅いでいたくなるような、優しい匂いだった。
以前アメリカのドキュメンタリーで「真実の愛とは何か」というテーマを見た。
結局のところ、それは個人と世界との、そして人と人との“縁”なんだと思う。
無理に求めるものじゃない。出会えたなら、それが運命。
出会えなかったなら、それもまた宿命。
「無理にねじった瓜は甘くない」――日本にもそんなことわざがある。
結局、世の中のあらゆることも同じじゃないか。
悪事を重ねて金や地位を得た人間も、結局は幸福にはなれない。
彼らの短い人生は虚しく終わり、財産も名声も消え去り、名は汚される。
本当に“人間らしい”人は、自分の生に恥じず、周りの人を幸せにする。
幸福は伝染する。正義も、善意も。
逆に、悪のある場所には悪しか生まれない。
そして彼らは、周囲の人間ごと、悪そのものの犠牲になるのだ。
午後、俺はベルーナと別れて、急用で抜けた神職の代わりに、教会に保護されている孤児たちへ生活指導の授業をすることになった。
その子たちの顔を見て、初めて知った。この世界でも、やはり戦争は起きているのだと。
今いるこの国は比較的平和で、豊かといえば豊かだ。けれど、国土が狭く国力も弱いうえに、ちょうど二つの大国の国境に挟まれている。
そのせいで、侵略を受けることが多く、孤児が増えているという。
子どもたちの両親は兵士になったわけじゃない。
ただ、自分たちの畑や作物を守ろうとしただけで、敵国の軍に襲われ、殺され、家を焼かれた。
その後、ようやく駆けつけた自国の軍によって助け出され、近くのこの町の教会に保護されたらしい。
それでも、彼らの瞳には光があった。
家族を失っても、未来への憧れと希望を失っていない。
「子どもは希望そのもの」――まさにその言葉がぴったりだと思う。
たしかに、子どもは美味しいご飯や小さなプレゼントで笑顔になれる。
けれど、それこそが“幸福の原点”なんじゃないか。
努力すれば報われる。幸福は、すぐそばにある。
そう信じられる社会こそが、健全な国なのだ。
短い実習時間の中で、俺は日本の幼稚園でやっていた遊びをいくつか教えた。
折り紙、そして簡単なあやとり。
そんな他愛もない遊びでも、子どもたちは目を輝かせていた。
夕暮れ時、教会の中庭にある魔法で動く時計を見上げて時間を確認し、ベルーナとヒラリィを迎えに行く準備をした。
外に出ると、ベルーナがすでにそこに立っていた。
――この世界にはスマホのような通信手段がないのが残念だ。
でも、彼女の様子からして、それほど長く待っていたわけでもなさそうだ。
きっと教会併設の医療院に行っていたのだろう。
「この世界には、まだ広範囲を一度に治すような〈瞬間治癒魔法〉は存在しないのよ」
ベルーナがそう説明した。
やっぱり……俺が考えていること、全部読まれてる気がする。
「違うの。実は――あなたのあのスキル……お父様から授かった“あれ”で、私、あなたに睨まれてから思考が聞こえるようになったの」
ベルーナが顔を赤らめながら言った。なるほど、そういう仕組みだったのか。
「さっきもね、あなたが外に出るって感じたから、先に来てたの。ただ、誤解しないで。病人を治すのなんて、私にとってはすぐ終わることなの」
そう言って彼女は照れくさそうに目をそらした。
……さすが女神様。人間なんかとは比べ物にならない。
彼女は小さな袋を取り出し、俺の手のひらに七枚の銅貨と三枚の銀貨を乗せた。
「今日のお給料よ。先払いでここまで出してもらえたの」
そう言って、にこりと笑う。
「今、あなた一文無しでしょう? それに、さっきは子どもたちに無償で授業してくれたんですってね」
たまたま担当の神父が急用で、俺に時間があっただけなのに。
それでも、子どもたちと遊べて楽しかった。それだけだ。
「あなたは優しい人ね」
ベルーナがぽつりと呟いた。
「なんとなく、父上がどうしてあなたを選んだのか、少し分かった気がするわ」
そう言って、俺の手をそっと握る。
「まだ六時まで時間があるし、ちょっと町を歩いてみましょう。さっき聞いたんだけど、この近くに小川が流れる公園があるんですって。
六時になったら、一緒にギルドに行ってハイラリアを迎えに行こう?」
彼女は少し身をかがめ、顔を傾けながら、問いかけるように微笑んだ。
断る理由なんてない。――いや、理由なんていらない。
そこにあるのは、ただ心の底から湧き上がる幸福の衝動だった。
公園は教会の裏手にあり、町を横切る川が流れている。
ベルーナは青い石畳の階段を歩き、足音が「パタ、パタ」と響く。
改めて気づいた――彼女、今日も靴を履いてない。
俺たちはそのまま並んで石畳を降り、川辺に腰を下ろした。
ベルーナは裸足の足を水に入れ、何の目的もなくパシャパシャと動かしている。
少し離れた場所からは、昼間授業をした子どもたちの笑い声が聞こえてきた。
「この世界、のんびりしてるね」
俺は呟いた。
思い返せば日本では、普通のIT管理職として働いていた。
朝八時半から夜六時まで――表向きはそういう勤務時間だったが、
実際は意味不明な理由で残業ばかり。家に帰るのはいつも九時過ぎ。
そんな生活を三年続けて、ついに大病を患い、両親が心配して退職させてくれた。
それが、俺がニートになったきっかけだった。
努力が嫌だったわけじゃない。
ただ、両親にとっては、俺の命の方が仕事より大事だったのだと思う。
その後、長時間労働を取り締まる法律ができたけど……
もう俺自身が、履歴書を出す勇気を失っていた。
怠け心じゃない。
物価も家賃も上がり続ける現実を前に、働く気力そのものが削がれていったんだ。
一ヶ月必死に働いても手取り三十万円。
でも、普通の家は一億円以上。
三十年働いても、食費も出さずに貯めても届かない。
野菜も果物も値上がりばかりで、数年前の倍以上の値段。
――そんな現実で、どうして若者が希望を持てる?
俺は茫然と川面を見つめた。
水は静かに流れている。
けれど、かつての俺の情熱は、あの現実の中で完全に削り取られていた。
今、ようやく解放されたのかもしれない。
この異世界に来て――もう“近所の噂のニート息子”じゃないんだ。
――結局、俺はただ逃げていただけなのかもしれない。
そう思った瞬間、胸の奥がじんと痛んで、気づけば涙がこぼれていた。
もうすぐ三十になるというのに、情けない話だ。
ベルーナがそっと寄り添い、俺の頭をその豊かな胸に抱きしめてくれた。
そういえば、さっき彼女は俺の心の声が聞こえるって言ってたっけ。
心配かけて、本当に悪いことをした。
俺はただ、同世代の人間たちに対して、少し不公平だと感じているだけなんだ。
どうして年寄りたちは、自分たちが時代の恩恵でのし上がったくせに、
若い世代を押さえつけようとするんだろう。
独占と階級の固定ばかり考えて、未来の担い手を潰してどうする。
若者こそが人類の希望だって、どうして気づかないんだ。
極端な富の偏りは、若者たちの結婚願望も、出産意欲も奪う。
そんな状態でいくら「子育て支援」なんて言ったって、
限界を迎えた建物の外壁に、ガムテープで補修してるようなものだ。
年金制度や昇進の約束――本当に老人のためになってるのか?
結局、それらも一部の人間が他人の資産を横取りするための、
“もっともらしい言い訳”に過ぎないんじゃないか。
確かに、好景気の時代なら「若者が老人を支える社会」も理想的だ。
けどそれだって、富が偏り、税が浪費された結果、
過去の金が枯渇して未来の金を食いつぶすための方便じゃないのか。
もし社会全体が、未来の収入を借りて今を埋めるような仕組みなら、
若者が希望を失い、次々と“寝転がる”のも当然だ。
――最初から間違っている。俺にはそう思えた。
「あなたって、本当に優しいのね」
ベルーナが俺の髪を撫でながら、耳元で囁いた。
優しい、か。
でも俺みたいな人間は、ネットではよく“お節介な憂国厨”だの“極端主義者”だの言われる。
政治家でもない俺に、世界の仕組みを変える力なんてない。
……なのに、そんなことを考えてどうするんだろうな。
俺はもう、この新しい世界に来ている。
そして見渡せば、この世界の人々の表情には穏やかな幸福がある。
ここでは夢を見て、努力して、それを叶えようとする人たちがいる。
――それだけで、十分現実的で、そして美しい世界じゃないか。
「ありがとう」
気持ちを落ち着けながら、ゆっくりと顔を上げた。
目の前には、あの神殿で初めて見たときと同じ――神々しくも優しいベルーナがいた。
「私はいつでも、あなたの話を聞くわ。何かあったら、胸を貸してあげる」
そう言って、彼女は眉を下げ、目を細めて、口元に小さな微笑を浮かべた。
その表情は――まるで昔プレイしていたギャルゲーの、
ヒロインが見せた“母性を含んだ幸福の笑顔”と重なって見えた。
「……足、触ってもいい?」
思わずそう口にすると、ベルーナは少し驚いた顔をして、それから小さく頷いた。
彼女は川に浸していた白い足をそっと差し出す。
淡くピンク色を帯びた少女のような足。
俺が手を広げて比べると、ちょうど手のひらの長さと四指を揃えた幅にぴったりだった。
――この形、覚えておこう。明日、市場で靴を探してみるか。
やがて日が沈み始め、俺たちは公園を後にして再び冒険者ギルドへ戻った。
扉を開けると、受付のオヤジが上機嫌そうに座っていた。
あの怒り顔ではなく、どこか穏やかな表情だ。
そのとき、軽い足音が近づいてきて――
数時間ぶりのヒラリィちゃんが、満面の笑顔で駆け寄ってきた。
「お父さん、ちゃんと説得しておいたから!」
彼女は手に、俺の名前が刻まれたプレートを持っていた。
「明日から働いてもらうぞ」
カウンターの奥から、オヤジの声が聞こえる。
「だがな……俺の可愛いハイラリアをちょっとでも口説いたら、承知しねえぞ」
拳を振り上げ、光る頭が反射してまるでCIAの捜査官みたいに迫力がある。
「もうっ、パパ! それ言わないって約束したでしょ!」
ヒラリィちゃんが振り返って抗議すると、オヤジはそっぽを向いて黙り込んだ。
「ねぇ、旦那様。今日はベルーナお姉さんと一緒に、私の部屋に泊まりませんか?」
その甘い声の直後――
「絶対に許さん!!!」
オヤジの怒号が、ギルド中に響き渡った。




