第4話:マリーの失ったもの
パーティーの途中で、マリーがトイレに行った時、リンおばあちゃんが心配そうに聞いた。
「どうしたの?元気ないのかい?ルシアカップ出場はそう簡単に出来るものじゃないよ。もっと胸張って!」
僕が不安がっているのを見て、心配しているようだ。
「前はあんなにマリーの為に世界一を獲りたい!って言ってたのに……どうしたんだい」
「えっ?マリーのため?」
「そうよ。マリーはザンティア・ザックという呪術師によって看護師になるという〝夢〟を奪われたのよ。あいつ《ザック》は何でも奪えるの。物だけじゃなく、人の夢や欲望まで奪えてしまう」
「えっ……」
僕はすごく驚いた。そんなすごい能力の持ち主がいるなんて。
「そいつは私達の命を見逃す代わりに、マリーの夢を奪っていったのよ。マリー自身は奪われたことに気づいていない。それが厄介なの。だから、トゥウィンにはそいつ《ザック》を倒して、世界一を目指してほしいの。多分、ザックは上の方まで上がってくると思うわ。当たったらぶちのめしてやって!」
リンは拳を固めた。僕はそれを聞いて、マリーの為に勝ちたいという欲が出てきた。人の為に振るう刃はとてつもなく強いと聞く。
「わかった。マリーの夢を取り返すよ」
「その意気よ!でも一つ注意があるの。マリーに看護師の夢の事を思い出させるような事をしてはならないの。その人の前で、失ったものについて話すと、その人は死んでしまう呪いがかけられているの。だから、マリーの前では絶対言わないように」
「わ、わかりました」
その呪いの使い手はすごく手強そうだ。そいつを倒すことが最大の目標だ。
そして、マリーがトイレから戻ると、パーティーは再び盛り上がった。
「「美味しかったぁ!」」
僕とエルムの声が重なった。
「被さないでよ」
「いや、そっちが被せてきたんじゃん」
僕らは冗談交じりで言い合いをした。
「2人とも同時だったわよ」
リンおばあちゃんが言うと、マリーは笑った。
パーティーが終わり、マリーとエルムはここに泊まることになった。
「お前を倒しに来た!」
エルムの寝言が家中に響く。エルムの寝言と寝相の悪さになかなか寝付けない。
「うるさいよ」
僕がそう呟いても、エルムの夢の中に声は届いていない。
「次はお前だ!」
夢の中でルシアカップでも始まっているのだろうか。僕もルシアカップで敵と戦っている場面を想像しながら、目を瞑った。
良い夢が見れたらいいな。そんなことを思いながら眠りについた―――