第3話:ルシアカップ出場決定!
僕が異世界に転生してから10日ほどが経ち、だんだん異世界での生活に慣れてきた。
この10日間で分かったことを簡潔に説明すると……
まず、この世界に中学校という概念はない。小学校に値するであろう『スタースクール』という学校で6歳から9年間を過ごすという。
優秀だった人に与えられる『アウェイクスター』という称号1つにつき、9年から引き算のように卒業が早まって行く。
僕は5年目(11歳)でスタースクールを卒業し、今のアース道場の方に専念している。同い年のエルムは、6年目(12歳)で卒業して、アース道場に通っている。
僕の住む町はウィンドタウン。アース先生の先代アース・ウィンドの名前から取っている。アース・ウィンドが天下統一した事を記念して作られた町だ。
僕の母はアン・エリー。看護師をしていたが、病弱で、僕を産んだ2年後に亡くなった。
父はアン・ルシア。母とは、戦場でケガを負った時に病院で出会った。父は天下統一をかけて、アース・ウィンドと戦い、敗北し、自害した。生前、父が作ったルシアカップは、残されており、優勝者は戦士として世界1位を名乗ることが出来る。
両親を失った僕はアン・サリーンに養われている。そう、イチゴのタルトを作る、あのリンおばあちゃんだ。
リアーナ・マリーはよく家に来て僕と遊んだり話したりする恋人だ。
そんな町で、アン・ルシアを父に持つ僕は、将来が期待される剣士として生まれた。幼い頃から剣を握り、実践を積んできた。弱点が見える能力は、先天的なものではなく、実践を幾度と積んできたからだとアース先生は言う。
「トゥウィン。そして、エルム。2人にはルシアカップに出場する権利が与えられた」
「「おぉ!」」
「初じゃん!すげー!トゥウィン!」
「エルムおめでと〜!」
アース先生の発表に、道場生は歓声をあげた。
「トゥウィンとルシアは明日から剣士道場の合同合宿に出てもらう」
「「はい!」」
僕らは声を合わせて返事をした。
「合同合宿の場所や持ち物は、渡したしおりに書いてある。合宿内容は書いていないし、こちらからも答えられないようになっている。行ってからのお楽しみだ」
「えっ……」
「頑張ってくるように。じゃあ皆、解散。」
「「ありがとうございました!」」
道場生があっという間に礼をして、道場から出ていった。
「ど、どういうことなの?合宿って。しかも内容もわかんないし」
「ボクも分かんないよ。でも、行ってみるしかないじゃん」
エルムはカバンを整理しながら言った。僕は困惑する。
帰り道、どんな合宿になりそうか2人で話した。というより、ほとんどエルムが話していた。
僕はエルムの予想を聞きながら、不安にかられていた。
ルシアカップは大人も子どもも関係なく戦う。そして、剣士だけでなく銃士も。更に、斧や鎌など、様々な武器を持つ敵と戦わなくてはならない。
まさに世界最強を決める戦いだ。そんな凄まじい戦いに参加して良いのか?そして、勝てるのか?僕は初戦敗退のイメージしか持てない。
家に入ると、マリーが玄関で待っていた。
「おめでと〜!聞いたよ!初めてのルシアカップじゃん!!」
「うん……」
「どうしたの?元気ないじゃん」
「いや、勝てるか不安で」
「トゥウィンらしくないな〜。トゥウィンなら勝てると思うけど」
僕はマリーの笑顔を見ても、不安は解消されなかった。
田中玲王だった時も、この不安でネガティブな部分はボクサーには不向きだと言われていた。試合前には吐きそうなぐらいの不安にかられていた。
「私はトゥウィンのポジティブな所に惹かれたんだけどな……」
「……」
僕は何も言えなかった。
「あ、ごはん出来たっぽい!じゃあ行くよ!ごはん食べたら元気出るよっ」
僕はマリーに手を引かれて、リビングへ向かった。
リビングに入ると、ルシアカップ出場決定をお祝いする豪華なメニューがずらりと並んでいた。
僕の食欲が一気にそそられる。
「トゥウィン!よだれ出てるわよ」
「あっ!」
リンおばあちゃんが指を指すと、急いでハンカチで拭いた。マリーはクスっと笑う。
「「いただきます!」」
僕は真っ先にハンバーグにかぶりついた。
「おいしい!」
僕はあまりの美味しさに上を向いて叫んでしまった。
すると、後ろからエルムの声がした。
「やるんだったら言ってよね〜」
後からこのパーティーの噂を聞きつけたエルムの家族が来たようだ。
エルムはハンバーグにかぶりついた。
「おいしい!」
エルムが上を向いて叫ぶ。
「ほんとに2人は似てるわね」
リンおばあちゃんがそう呟き、マリーが笑う。
そんな声も聞く耳持たず、エルムは夢中で大盛りのパスタを食べている。エルムのそんな顔が幸せそうだ。