第2話:道場へ
僕はさっき握っていた剣をまた手に取り、首を横に振る。
「なんかしっくりこないな」
そして、何かを探すように、走ったり、ジャンプしたりしてみた。
とにかく、僕の武器を見つけたい。自分を守れる武器を。傍からみたら右往左往している変人だと思う。
「トゥウィン、トゥウィン!もう、行くよ!リンおばあちゃんが呼んでるよ」
可愛らしい水色の髪をした少年が叫んでいる。あの少年はエルムというそうだ。
同い年には見えない、ってそうか、僕は転生して少年になったんだ。慣れないな。13歳だってさ。
そして、さっきのタルトのおばあちゃんが、アル・リーンという名前らしい。みんなはリンおばあちゃんと呼んでいる。
「今、行くね」
返事をして、エルムの元へ向かう。剣士を志す子どもたちが通うアカデミーという場所に行くようだ。
「打ち込み練習だ!!」
アカデミーの先生が通る声で声をかけた。先生は昔最強の剣士だったらしい。
名前はアース・ロゼスト。アースアカデミーの創設者の息子だ。
初代の創設者はアース・ウィンド。剣で混乱した世界を天下統一したすごい人だ。
先生はそんな先代から受け継いだ剣技や作法を教えているという。皆はアース先生と呼んでいる。
「どうした?調子悪いか?」
僕は木刀をフラフラと振り下ろした。僕に剣技の才能はないのか。
「無理です……」
僕はため息をつくように、弱音を吐いた。
「良いから、じゃあ、トゥウィン!木刀持って、ダビーと勝負だ」
そんなこともお構いなしに、アース先生は彼をフィールドへ押し出した。
足を引きずるようにフィールドに立ち、剣を構えた。ダビーと同い年だが、ダビーはガタイが大きく背が高い。
ダビーは僕を睨みつけた。彼はそんな目線も頓着なく木刀を構えた。
「え、トゥウィンの様子がおかしい」
「今までと構えが違う!」
なんだか周りがざわざわしているが僕にはわからない。
周りは僕を覗き込んで、固唾を飲んでいる。
「よーい、はじめ!」
沈黙の中、僕はダビーが豪快に振った剣を避けた。
すると、何やら照準のようなものが見えた。ここに振り抜けってことか?
僕は膝の部分の照準をめがけて剣を振り抜いた。ダビーがコケるようにして後ろに倒れる。
「すげえ!」
「うお〜」
今日入ってきたばかりの新入生が輝きの目を見せた。
普段を知っているからか、アース先生と練習生はうなずいている。
特技が少しずつ見えてきた。剣技が特別上手いわけでも、力が強いわけでもない。僕は、しなやかな身体と相手の弱点を見抜く能力を兼ね備える剣士なんだ。
これなら、これからどんな場所でもどんな敵でも戦えるぞ。僕の内側から自信にがあふれてきた気がした。
そして、エルムは全てを知っているように微笑んだ。
「はい。終わり!じゃあ次!トゥウィンとダビーは片付けて着替えてこい」
「トゥウィン、良かったよ」
エルムがフィールドを後にするトゥウィンの方へ駆け寄る。
「ありがと…⋯でも、毎日これなんて無理だよ」
僕は肩を下げ、ため息を一つ吐いた。さっきまでの自信はどこにいったのか。僕にもわからない。
基本の性格はネガティブで、試合の時はポジティブになるのだろうか。
アドレナリンのようなものが出るのか。全くわからない。
エルムはそれも分かっているように、僕の背中を叩き、ロッカールームの方へ押し出した。
これからここで世界一を決めるのだろうか……僕なんかが世界一になれるのかな。
明るいはずのこの道が真っ暗に見えた―――