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第1話:死亡、そして転生

 「ああ、疲れた……」


 田中玲王たなかれおはトレーニングのあとに、倉庫作業のアルバイトを終え、やっとの思いで帰路についた。扉の前でウロウロしている。僕の父である田中功たなかいさおが睨みを効かせて、ドアの前で待っているのだろう。


 「ただいま……」


 僕が家のドアを開けると


 「玲王れお!この恥晒しめ!!!」


 父さんは大声で叫ぶ。夜の20時だというのに……時間を分かっているのか。


 「聞いてるのかっ!?お前の弟は弁護士を目指して東大に入った。兄も医者になった。なのにお前は !」


 父さんが僕にいきなり殴りかかった。その後、無言で父に殴られ続ける。僕は無抵抗でその暴力を受けた。そうして、玲王の傷だけが増えていく。


 「痛えよ……」


 ボクシングで慣れているとはいえ、痛い。毎日父さんに殴られ、あざまみれの僕は「世界チャンピオンになって両親を見返してやるんだ」と日々トレーニングしているが、それは夢のまた夢である。


 「もういい、好きにしろ」


 父さんが去ったあと、僕は立ち上がり、扉を開け、コンビニに向かった。


 そうして、僕は夜道をトボトボと歩く。


 高校卒業後、4年間ボクサーを志した。やっとの思いで無名ボクサーになったが、アルバイトをしていかないと生きていけないのだ。功は毎日「一家の恥だ」と僕をけなす。


 23時。僕は、3時間、コンビニとハンバーガー店で時間をつぶした。


 「嫌だなぁ……」


 玲王はハンバーガーのゴミを捨てながら、そんな言葉を漏らした。


 「でも、父ももう寝てる時間だろ。はぁ、帰るかぁ……」


 事件が起きたのは、その帰りだった。僕が赤信号を待っていると、突然、僕の方へトラックが突進して来ていたのである。そして、僕はトラックの音や気配に全く気づかず、そのまま後ろからトラックにはねられてしまったようだ。


「うっ!!なん……でっ」


 僕の頭の中に走馬灯が駆け巡った。


 最後の景色が見えた。これは……思い出じゃないぞ?西洋風の屋敷が見える。こんな場所には行った覚えがない。


 −−−−−−−−−−−−−異世界へ−−−−−−−−−−−−−−−


 現れたのは西洋風の大きな屋敷。


 そこに僕は剣を持って立っていた。


 風が吹き、木々が揺れる。


 そこで、女の子の声がした。透き通った、純度100%の天然水のような声だ。


 「……ウィン!どうしたの?夢でも見てるの?」


 僕の顔の前で少女がブンブンと手を振っていた。


 そんなわけがない……そんなわけがない


 僕はさっきトラックにはねられて死んでしまったのだ。


 「稽古は終わり?いちごのタルトでも食べるかい?」


 おばあさんがいちごのタルトを持ってきた。彼が世の中で一番嫌いな食べ物だ。


 やっぱりおかしい。こんな西洋風の屋敷にいるなんてありえない。僕はさらに大きく首を振った。


「あら、タルトよ?トゥウィンの大好物。いつも美味しそうに食べるじゃない」


 どうやら、死んでからトゥウィンという少年に転生してしまったらしい。そんな彼の目の前に大嫌いなイチゴのタルトが近づけられた。


 「そのいちごジャムとやらが大嫌いなんだ。何故美味しい苺をわざわざジャムにするんだよ。そのまま食べたほうが美味しいに決まっている。僕には苺をジャムにするなど到底考えられない」


 僕はそう言った。ふとした時に毒舌になってしまうのだ。


 「トゥウィンって僕のことですか?」


 僕は一応聞いた。間違いの可能性だってあるのだ。


 「寝ぼけてるのかい?」


 おばあさんが白目をむいて煽るように僕に聞き返した。そりゃそうだ。異世界の人にはわかりもしない話だ。


 「いや……あ、」


 僕は異世界ここについてさらに尋ねようとしたが、少女にさえぎられた。


 「おばあちゃん!タルトありがと!」


 おばあさんとの会話の間に入った少女はこんな不可解な状況も知らず、笑顔でタルトを頬張っている。


 「タルトだよ。食べないの?」


 少女は片手でタルトを食べ、もう片方の手でタルトを手渡してきた。妙に器用だ。ジャムがこぼれてるけど。


 僕はそれを受け取って、一口かじった。


 「うん、異世界のいちごのタルトもやっぱり美味しくないや。やっぱ、苺のまま食べたいな。出来れば採りたてで……」


 トゥウィンは毒舌の続きを吐き出した。


 そして僕は空を見上げる。ああ、母さんどうしてるだろう……少し涙がこぼれた。

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― 新着の感想 ―
 読ませて頂きました。プロローグ〜そしてエピソード1まで読みました。主人公で無名のプロボクサーの田中玲王は、コンビニ帰りトラックにはねられ、死亡する。その後、異世界に飛ばされ、記憶を引き継いだ状態で…
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