天然女子校生、異世界で「ぽんこつ女神」と呼ばれる件
登場人物紹介
* 星野ひかり(ほしの ひかり):桜宮高校に通うごく普通の女子高生。クラスでは「ぽんこつひかりん」の愛称で親しまれている。天真爛漫で、どんな時も前向きなムードメーカー。つむじから生えた一本のアホ毛がチャームポイント。料理は壊滅的だが、なぜか奇跡を起こす。
* シオン・エルヴァルト:エルディオス神殿騎士団長。銀髪に翠の瞳を持つ、眉目秀麗な青年。冷静沈着で責任感が強く、常に世界の平和を願っている。女神の降臨を固く信じており、ひかりを心から尊敬しているが、その天然っぷりに振り回されることもしばしば。
* アルマ(魔王の真の姿):かつては心を閉ざし、闇の力に囚われていた少年。
本編
「うわぁ、また寝過ごしたぁ!」
新緑がまぶしい初夏の朝、桜宮高校の制服を着た少女、星野ひかりは、今日も今日とて寝坊した。跳ねるポニーテールと、つむじから生えた一本のアホ毛がトレードマーク。
(あーあ、また怒られちゃうかな、先生に。でも、朝ごはんのパンは絶対食べたいし…!)
パンを咥え、慌ただしく家を飛び出したひかりは、いつもの通学路を猛ダッシュする。きらめく朝日に照らされた商店街のシャッターは、まだ閉じている店が多い。豆腐屋さんの前を通り過ぎる時、ふわっと豆乳の香りがした。横断歩道を渡ろうとしたその時、けたたましいブレーキ音と、急旋回するトラックの影が視界を覆った。
「え、なに…?」
次に感じたのは、強烈な衝撃と、全身を包み込む柔らかな光。意識が遠のく中、ひかりは、ほんのり甘い、どこか懐かしい香りがするのを感じた。
───
目を開けると、そこは見たこともない、幻想的な世界だった。
「わぁ…! キレイ…!」
ひかりの目の前には、絵本でしか見たことのないような、色とりどりの花が咲き乱れる広大な草原が広がっている。風がそよぎ、花の香りがふわりと鼻腔をくすぐる。足元には、見たことのない形をした、丸くて透明な石がキラキラと輝いている。空には三つの月が浮かび、一つは真珠のように白く、もう一つは琥珀色に、そしてもう一つは淡い青色に輝いていた。夜空には、宝石を散りばめたように無数の星々が瞬き、その光は地上にまで届いているかのように、あたりをほのかに照らしていた。
「な、なんだここ…? 私、学校に…」
混乱するひかりの前に、突如として、草原の真ん中から光の柱が天へと昇り、そこから一人の男性が姿を現した。彼は、銀色の髪が月の光を反射し、深緑の瞳にはひかりへの絶対的な敬意が宿っていた。身につけているのは、銀の装飾が施された、白い神殿騎士の鎧。
「おお、光の女神様…! ついに、ついにご降臨なされたのですね!」
男性は、ひかりを見るなり、その場に片膝をつき、恭しく頭を垂れた。
「ひ、ひかり様…?」
男性の言葉に、ひかりは首をかしげる。
(え、私? ひかり様って呼ばれてるけど、この人誰だろう? なんか、騎士さんみたいだけど…ドラマの撮影かな? でも、カメラとかないし…)
「あの、私、星野ひかりって言うんですけど…」
すると、男性はさらに深く頭を下げ、感動で声を震わせた。
「なんと、その御名までお美しい…! 我々はずっとお待ちしておりました、闇の魔王に支配されたこの世界を救う、光の女神様の降臨を!」
───
どうやらひかりは、この世界「エルディオス」で語り継がれる「光の女神」として召喚されてしまったらしい。男性は、エルディオスの神殿騎士団長を務めるシオン・エルヴァルトと名乗った。
「あの、シオンさん。私、全然女神様とかじゃないんですけど…ただの、日本の女子高生で…寝坊助で、アホ毛が一本生えてる、普通の女の子なんですけど…」
ひかりがそう言っても、シオンは真剣な顔で答える。
「いえ、光の女神様には、何故か日本の女子高生が選ばれると、古文書に記されております。そして、そのお姿…まさしく、慈愛に満ちた女神様そのもの!」
シオンの瞳は、ひかりのつむじから生えたアホ毛すらも、神々しいものとして映しているようだった。
(えー! アホ毛まで!? いやいや、これどう見てもただのアホ毛でしょ! 古文書って、どんな古文書だよー!)
シオンのその揺るぎない信仰心に、ひかりはあっけにとられるばかりだった。
かくして、ひかりの異世界での「ぽんこつ女神」生活が幕を開けた。
神殿の奥にある、豪華絢爛な女神の間に通されたひかりは、与えられたふかふかのベッドに飛び込んだ。
「うーん、やっぱベッドは最高だなぁ! でも、ここからどうすればいいんだろ…」
翌日から、魔王を倒すため、様々な試練がひかりを待ち受けることになった。シオンはひかりの教育係として、常にその傍らに付き添った。
剣の修行では、ひかりは教えられた型を全く覚えられず、何度やっても剣が手から滑り落ちそうになる。
「ひかり様、剣はもっとしっかりと握り、重心を低く…」
「うーん…あれ? こうかな? いや、これだと逆になっちゃう…あ、危なーい!」
間違って剣を逆さまに持ち、振り上げた瞬間に足元に躓いて転びそうになる。その時、たまたまシオンが放った練習用の木剣が、ひかりの頭上をかすめて飛んでいった。
「ひかり様…! さすがは女神様…! そのおよそ予測不能な戦い方こそ、まさに奇跡…! 敵の意表を突く、その自由な発想…私など遠く及びません…!」
シオンは目を輝かせ、ひかりの偶然の回避を「奇跡」として称賛する。
(ええー!? 違うよシオンさん! 私、ただ転びそうになっただけだよ! まさか、これが奇跡って…シオンさんの目、ちょっと曇ってるのかな…?)
魔法の勉強では、ひかりは呪文を間違えて唱え、とんでもない効果を発揮して周囲を驚かせた。炎の魔法を練習するつもりが、突然、色とりどりの花が咲き乱れる幻覚を見せる魔法になってしまったり、水の魔法で、巨大なシャボン玉を出現させてしまったり。
「ひかり様…! その創造性は…! 我々には想像もつかない、新たな魔法の可能性を切り拓いてくださるとは…!」
シオンは感嘆の声を漏らし、他の神殿騎士たちも、その「ぽんこつ」ぶりを「女神様特有の神秘的な力」として畏敬の念を抱いた。
(ご、ごめんなさい…! ホントはただ間違えただけなんです…! でも、なんか喜んでもらえてるみたいで、いっか…?)
そして、魔物との戦いでは、ひかりは恐怖で足がすくみ、転んだ拍子に魔物を吹き飛ばしてしまう。
「きゃあぁぁぁ!」
巨大なオオカミ型の魔物が唸り声を上げて突進してきた時、ひかりはあまりの恐怖に、その場にへたり込んだ。その瞬間、偶然にも地面に落ちていた石につまずき、体勢を崩して勢いよく尻もちをついた。その衝撃で、ひかりの体が宙に浮き上がり、魔物に激突。魔物は勢いよく吹き飛ばされ、そのまま壁に叩きつけられて消滅した。
「ひかり様…! そのまさしく、常識を覆す戦い方…! これこそ、真の女神様の御技…!」
シオンは、信じられないものを見るかのように、しかし確信に満ちた目でひかりを見つめた。
(えええー!? 今の、まさか私が倒したの!? 私はただ、転んだだけなのに…なんか、ごめんなさい、魔物さん…)
シオンは毎回、ひかりの「ぽんこつ」行動を「女神様の深遠なるお考え」と解釈し、ますますひかりへの信仰を深めていった。他の神殿騎士たちも、ひかりの予想外の行動に驚きながらも、その純粋な心と、どんな困難にもめげない明るさに惹かれていく。
そして、ひかりの天然っぷりは、この世界の人々の心にも光を灯していく。
闇の魔物によって心を閉ざし、笑顔を忘れてしまった人々は、ひかりの屈託のない笑顔と、とんちんかんな言動に触れることで、次第に笑顔を取り戻していく。
とある村を訪れた際、ひかりは村人たちから提供された食材で、日本の家庭料理を作ろうとした。しかし、異世界の食材に慣れていないひかりは、レシピを大幅に間違えてしまう。出来上がったのは、見た目も匂いも強烈な、得体のしれない「謎のスープ」だった。
「ひかり様、これは…?」
シオンが恐る恐る尋ねる。村人たちも、訝しげな表情で見つめていた。
「うーん、なんか変になっちゃったなぁ…でも、きっと美味しいはず!」
ひかりはそう言って、一口スープを飲む。すると、その瞬間、ひかりの顔が真っ赤になり、咳き込んだ。
「ご、ごめんなさい! やっぱり美味しくないや…!」
しかし、そのスープを飲んだ病の村人が、みるみるうちに元気を取り戻したのだ。
「体が、体が軽い…! これは、まさか…光の女神様の御恵み…!」
ひかりが間違って作った変な料理が、なぜか病に効く薬として評判になったり、ひかりが迷子になって入った洞窟が、実は隠された財宝の場所だったり…と、ひかりの行く先々で、不思議な幸運が巻き起こる。
「ひかり様は、本当に私たちを照らす太陽のような存在です!」
人々はひかりを「ぽんこつ女神様」と呼び、親しみを込めて慕った。子供たちは、ひかりのアホ毛を真似て、頭に葉っぱをつけて遊ぶようになった。
ひかりがエルディオスにもたらす数々の奇跡と、その予測不能な「ぽんこつ」行動は、次第にこの世界の言葉の概念を変えていった。いつしかエルディオスでは、常識を超えた偉業や、語り継がれる英雄的な伝説、そして未来永劫語り継がれるような奇跡の全てを、「ぽんこつ」と呼ぶようになったのである。
(なんか、みんなが喜んでくれるのは嬉しいけど…私、本当に何にもしてないんだよなぁ。でも、みんなの笑顔が見れるなら、このままでいいのかな…?)
シオンは、そんなひかりに次第に惹かれていく。最初はただの信仰だった感情が、ひかりの純粋さに触れることで、特別な想いに変わっていく。
シオンは、ひかりが剣の練習で指を切れば、すぐさま駆け寄って手当をし、魔法の暴走で焦げ付いた髪を優しく撫でつけた。ひかりの無茶な行動にハラハラしながらも、常にその身を守ろうと必死だった。
(ひかり様…その無垢な心は、この闇に染まった世界に、どれほどの光をもたらすのだろう。私が、この光を、この笑顔を、守らねばならない。)
もちろん、ひかりもシオンの優しさと真剣さに、少しずつ心を開いていく。
「シオンさん、いつもありがとうございます。私、シオンさんがいてくれないと、きっと何もできないです。」
ひかりが笑顔でそう言うと、シオンの頬がほんのり赤くなった。
(ひかり様の、その無垢な笑顔…ああ、この温かい感情は、一体…)
ある日、ひかりは魔王の城へと向かう道中、シオンに尋ねた。目的地は、常に暗雲に覆われた、不気味な山脈の奥。道中、荒れた大地には、魔物の残骸や、かつて栄えた村の廃墟が点在しており、この世界の悲惨さを物語っていた。
「あの、シオンさん。私、本当に女神様なんかじゃないのに、どうしてそんなに信じてくれるんですか?」
ひかりの瞳は、純粋な疑問を映していた。
シオンは、ひかりのまっすぐな瞳を見つめて、静かに言った。その声には、一切の迷いがなかった。
「私は、ひかり様の純粋な心と、その笑顔に、この世界の希望を見ました。この世界は、長きにわたり闇に覆われ、人々は絶望していました。しかし、ひかり様が降臨されてから、人々の顔に笑顔が戻り、失われた希望の光が、再び灯り始めたのです。」
シオンは、ひかりの手をそっと握った。その手は、ひかりの手よりも少しだけ大きく、温かかった。
「ひかり様が女神様であろうとなかろうと、ひかり様がこの世界にもたらす光は、本物です。そして、その光は、私自身の心にも、温かいものを灯してくれました。」
その言葉に、ひかりの心には、温かいものが広がった。まるで、太陽の光を浴びた花のように、じんわりと開いていくような感覚だった。
(シオンさん…そんな風に思ってくれてたんだ。なんだか、胸が温かいな。私、この人のために、何かできること、あるのかな…?)
───
そして、ついに魔王との最終決戦。魔王の城は、黒い岩と瘴気に覆われ、その威圧感は周囲の空気を重くしていた。
魔王の圧倒的な力に、神殿騎士たちは苦戦を強いられる。鋭い爪を持つ魔物が、容赦なく騎士たちに襲いかかる。シオンもまた、魔王の放つ闇の波動によって、膝をつきそうになっていた。
「くっ…!」
ひかりもまた、魔王の放つ重苦しい闇の力に怯えていた。その邪悪な気配は、ひかりの心を締め付け、足がすくんだ。
「ひかり様…! 危険です!」
シオンが叫ぶ。その時、ひかりの脳裏に、シオンや、この世界で出会った村人たち、子供たちの笑顔がよぎった。
(私、このままじゃダメだ! みんなが、シオンさんが、こんなに頑張ってるのに…! 私、ぽんこつなんか言ってられない!)
ひかりは、震える手で、とある魔法を唱えた。それは、以前、魔法の修行中に間違って覚えてしまった、意味不明な呪文だった。しかし、その時、ひかりの心には、ただ一つ、「みんなを守りたい」という強い想いが宿っていた。
「えーと、なんとかかんとか、ぴかぴかの、きらきらー!」
ひかりが叫ぶように呪文を唱えると、彼女の体から、今までとは比べ物にならないほどの、眩い光が放たれた。それは、単なる光ではなく、ひかりの純粋な心と、全ての人々を救いたいという願いが凝縮された、温かく、そして力強い光だった。その光は、魔王の放つ禍々しい闇の力を打ち消し、魔王を包み込んでいく。
「な、なんだと…!? この光は…!?」
魔王は驚愕の声を上げた。ひかりの放った光は、魔王の心に潜む、わずかな「闇」すらも浄化していくような、そんな優しい光だった。闇に飲まれ、歪んでいた魔王の心が、光によってゆっくりと解き放たれていく。
魔王は、光の中で、次第に小さくなり、その邪悪な鎧が剥がれ落ちていく。そして、やがて一人の寂しそうな、まだ幼さの残る少年の姿になった。透き通るような白い肌と、吸い込まれるような黒い瞳を持つ少年だった。
少年は、ひかりを見上げ、ぽつりと呟いた。
「…ありがとう」
その言葉は、ひかりの心に深く響いた。
シオンが警戒しながら、ゆっくりと少年に近づく。
「…魔王、なのか?」
少年は力なく頷いた。
「私は…アルマ。ずっと、一人だったんだ…」
アルマは静かに語り始めた。彼は元々、ある国のお姫様のお目付け役を務める、幼い孤児だった。しかし、魔物の襲撃で国は滅び、彼はたった一人、生き残ってしまった。深い悲しみと、誰にも寄り添ってもらえない「寂しさ」が、彼の心を蝕んでいった。
「誰も、僕を見てくれなかった。僕の寂しさを、誰も理解してくれなかった…」
その寂しさは、日に日に増幅し、彼の心を闇で塗り潰していった。そして、いつしか彼は、その膨大な寂しさのエネルギーを、周囲の「闇」を吸収し、増殖させる力に変貌させてしまったのだという。彼は世界中の寂しさ、絶望を吸い上げ、巨大な闇の存在、すなわち魔王へと変貌してしまったのだった。その寂しさ故に、世界を闇で満たし、全てを自分と同じ「孤独」にしようとしたのかもしれない。
「でも…君の光は、温かかった…初めてだよ、こんなに温かい光を感じたのは…」
アルマは、ひかりの放った光が、ただの破壊の力ではなく、自分の心の闇を溶かすような、優しい力だったことに驚いていた。ひかりの光は、彼の増幅された寂しさ、孤独を包み込み、癒やしてくれたのだ。
ひかりは、アルマの頭をそっと撫でた。
「寂しかったんだね。もう大丈夫だよ。一人じゃないから。」
その優しい言葉に、アルマの瞳から、一筋の涙がこぼれ落ちた。
「…うん」
こうして、エルディオスに平和が訪れた。空には再び青空が広がり、太陽の光が大地を優しく照らしていた。
───
「ひかり様、お疲れ様でございました。」
魔王が消え去った後、シオンはひかりに深々と頭を下げた。彼の顔には、疲労の色が見えるものの、達成感と安堵が混じった、優しい笑みが浮かんでいた。
「シオンさん、もうそんなに畏まらなくてもいいですよ。私、もうただのひかりですから。」
ひかりはにこっと笑った。頬には、少しだけ泥がついていたが、その笑顔は太陽のように輝いていた。
「いえ、ひかり様は、永遠に我々の女神様でございます。」
シオンは真剣な眼差しでひかりを見つめる。彼の瞳には、ひかりへの尊敬と、それ以上の、深い愛情が宿っているのが見て取れた。
(あぁ、シオンさんたら…ホントに真面目なんだから…でも、そんなシオンさんが、私、好きだなぁ…)
魔王の城のあった場所は、ひかりの光によって浄化され、かつてのような禍々しい雰囲気は消え去っていた。アルマは、シオンたちが保護し、神殿の近くの安全な村で、ゆっくりと心身を回復させることになった。彼はまだ幼く、心を閉ざしがちだったが、ひかりが時折訪れては、アホ毛を揺らしながら笑顔で語りかけ、時には日本の遊びを教えてやることで、少しずつ笑顔を見せるようになっていった。彼の黒い瞳には、以前のような深い闇はなくなり、穏やかな光が宿り始めていた。
そして、エルディオスの人々は、ひかりのために盛大な祝賀会を開いた。神殿の広場には、色とりどりの旗が飾られ、民族楽器の陽気な音色が響き渡る。村人たちは、ひかりの手を取り、感謝の言葉を口々に伝えた。子供たちは、ひかりのアホ毛を真似た葉っぱの飾りをつけ、ひかりの周りを走り回った。ひかりは、皆の笑顔に包まれ、この世界に来てよかったと心から思った。
(元の世界に戻れるかな…? でも、ここにはシオンさんや、みんながいる。それに、アルマも。ここで、みんなの笑顔のために、もっと何かできることがあるかもしれない。そう思うと、なんだかワクワクするな!)
いつか、元の世界に戻る日が来るのだろうか。それはまだ、ひかりにも分からない。けれど、今は、この世界で出会った大切な人々と、この平和な日々を、心ゆくまで楽しもう。
「ねえ、シオンさん。今度、一緒にあの丘までお散歩に行きませんか? 桜がいっぱい咲いてて、きっとキレイですよ!…あ、でも、こっちの世界に桜ってあるのかな?」
ひかりは首を傾げた。
「はい、ひかり様。喜んで。この世界にも、桜とよく似た『月見草』という花が咲く丘がございます。ひかり様とご一緒できるのなら、どこへでも。」
シオンは、ひかりの手をそっと握り、その手の甲に、優しくキスを落とした。ひかりの頬が、桜色に染まる。
(シオンさん、なんてことするのー! でも、なんか…嬉しい…!)
ひかりの天然で朗らかな笑顔に、シオンもまた、優しい笑みを浮かべた。
異世界で「ぽんこつ女神」と呼ばれながらも、持ち前の明るさと天然で、多くの人々を救い、そして恋まで芽生えさせた女子高生の物語は、まだ始まったばかりである。
一旦終わり