補足 現代フランスにおけるナポレオンの評価
ナポレオン・ボナパルトは、現代フランスにおいても依然として議論の的となる歴史的人物である。2021年には没後200年の記念行事が行われ、大統領エマニュエル・マクロンは「ナポレオンは偉大さと過ちの両方を持つ人物である」と公的に言及した。この発言は、現代における彼の評価の象徴的な表現といえる。
一方で、フランスの歴史教育ではナポレオンを一方的な英雄視はせず、功績と問題点の両面を教える姿勢がとられている。民法典(ナポレオン法典)の制定、教育制度の整備、国家制度の近代化など、現代フランス社会の基礎を築いた改革者としての側面は高く評価されている。
その一方で、対外戦争の拡大、奴隷制の再導入、権威主義的統治、女性の権利制限などについては厳しい批判も存在する。特に近年では、植民地主義や人権の観点から再評価の動きも強まっている。
また、世代や立場によって評価は分かれる。歴史愛好家や一部の保守層には「近代国家を築いた稀代の天才」として称賛される一方、人権団体や進歩的知識人の間では「戦争を利用して個人の野心を遂げた独裁者」とする見方も根強い。
ナポレオンの存在は、今もフランスにとって「歴史とアイデンティティを問う鏡」である。彼の名は消えず、記憶は更新され続けている。それが、英雄ナポレオンに課された、もう一つの「永遠の戦場」なのかもしれない。
……
ナポレオンは、フランス国民の一部からは高い支持を受けており、革新者としての位置づけは日本の織田信長に近いとも言える。
ただし、信長が日本統一を果たせなかったのに対し、
フランスでナポレオン一世が皇帝となり、ヨーロッパ大陸の多くの国々を軍事力と政治的影響力によって支配下に置いた。
その分、功も罪も非常に大きな人物であったと言える。
……
織田信長が本能寺の変で倒れたのは1582年。ナポレオンがフランス皇帝に即位したのは1804年で、その約220年後のことである。日本ではすでに戦国時代が終わり、江戸幕府の後期にあたる時代だ。
一方、ヨーロッパではナポレオンの登場によって、王政から近代国家への移行が加速していた。
そして日本も、近代化の流れに逆らえず、飲み込まれていくことになる。




