第8話 わたしたちの保育
異世界保育園には、時庭ゆかりのほかに──すでに三人の“異世界人”職員たちが配属されていた。
堕天使・ミュリエル。
竜人・サリア。
アンドロイド・C-03(通称:シー)。
いずれもこの世界の子どもたちの“育ち”を支えるため、特例召喚や転送協定によって招かれた専門家たちだった。
しかし、正式に“全員揃って顔を合わせる”のは、今日が初めてだった。
*
早朝、園の共有室。
丸い木のテーブルを囲んで、四人が静かに座っていた。
「おはようございます。今日はちょっと、“私たちの保育”について、話しませんか?」
ゆかりが温かいハーブティーをいれると、サリアが少し首をかしげた。
「保育……とは、定義から確認しますか?」
「いえ、言葉より“気持ち”のほうが大事だと思うんです。どんなふうに子どもを見てるか。そういう話を、しておきたい」
「私は、“守る”ことですね」とサリア。
「事故を防ぎ、安心して過ごせるように気配を張る。それが、わたしの役目です」
ミュリエルはしばらく黙っていたが、やがてひとこと。
「声にならないものを、聴く」
その短い言葉に、ゆかりは小さくうなずいた。
「シーちゃんは?」
「私は“記録”と“比較”から入っていましたが……最近は、“違っていい”ことの意味を学びました。……“うれしい”という感情に、自分が反応していることも」
「それは、すてきなことだと思うよ」
ゆかりは少し間をおいてから、ぽつりと話した。
「私は、“もう一回やってみよう”って、言える場所をつくりたい」
「失敗しても、怒られずに、やり直せる場所」
「そういうところでこそ、人は“育っていく”んじゃないかと思ってて」
朝の光が、窓からさしこむ。
言葉が尽きたとき、なんとも言えない静けさが場を満たした。
でもその静けさは、きっと悪くないものだった。
*
園に出ると、子どもたちの声が遠くで聞こえた。
トトラの「高いとこ登ったぞー!」
ミィナの「ちょっとあついの!」
ルウの「……風が、気持ちいいね」
「ね、先生たち。私たちのやり方、間違ってないよね」
「ええ」「たぶん、はい」「同意します」
異なる種族、異なる育ち。
でも、同じひとつの園を、同じひとつの想いでつくっていく。
これが、“わたしたち”の保育。