第6話 みんなで、あそぼう
朝の支度を終えると、ゆかりは子どもたちに声をかけた。
「今日はみんなで、ひとつの遊びをしてみようか」
トトラがぴくりと耳を動かし、ミィナはちらりと周囲を見る。
ルウは「……なにするの?」とそっと聞いた。
「“おおきなはらっぱ”ごっこをしようと思ってるんだ。みんながいろんな役になって、草むらの中で出会っていくっていう、即興あそび」
サリアとミュリエルが見守るなか、ゆかりは子どもたちに、思い思いの“役”を選ばせた。
トトラは「けもの」。
ミィナは「ひかりのいし」。
ルウは「かぜ」。
それぞれ、自分の存在に近いものを選んだ。
*
遊びが始まると、最初はばらばらだった。
ミィナは遠くの隅で石を積み、トトラは木の陰から出てこない。
ルウはくるくると空を飛び、ほかの子のところには降りてこない。
「“出会ったら、ちょっとだけ声をかける”っていうの、やってみる?」
ルールはたったひとつ。
「無理に近づかない。でも、出会ったら、声をかけてみる」
それを伝えると、子どもたちはすこしずつ、視線を交わしはじめた。
トトラが「ガウ」と言ってミィナの石をのぞいた。
ミィナが「ひかりのいしだから、さわると、ちょっとだけあついよ」と返した。
ルウが「かぜが、とおります」と言いながらトトラの耳にそっとふれていった。
トトラが「くすぐったい」と言って、ほんのすこし笑った。
*
午後。
みんなで集まって、今日の遊びのことをふりかえった。
ミィナがぽつりと言った。
「さいしょは、こわかったけど……“さわられない”って、やさしいって思った」
「うん。“近づかない”のも、思いやりになることがあるよね」
ルウは「風もね、触れないから、いつでもそばにいられるんだ」と言った。
ゆかりはノートにこう書いた。
子どもたちは、相手と自分の「距離」を手さぐりで学んでいる。
無理に合わせることよりも、「出会い」を信じて待つ遊びを大切にしたい。
その日、はらっぱごっこは、何の勝敗もつかないまま、ゆっくり終わった。
でも、それぞれの胸には、小さな「つながりの種」が残っていた。