第50話 リュカ、くる
その日の朝は、いつもとちがう風が吹いていた。
涼しさがまじる風は、
何かがはじまる予感のようで、
子どもたちは、落ち着かない様子で園庭をそわそわ歩き回っていた。
「ねえ、今日って、もしかして……」
「くるの?」「ほんとに?」
ポルカは、旗の下に立って、門のほうをじっと見ていた。
ミィナは、近くの草をむしりながら、そっとつぶやいた。
「……ほんとに、くるといいね」
そこへ──
「誰か、来た!」
トトラの大声が響いた。
門の向こうに、小さな影が見えた。
草の道をゆっくりと歩いてくるその姿は、
見まちがえるはずもない。
リュカだった。
肩に小さな袋をひとつかけ、
少しだけ、緊張したような表情で。
でも、その歩みは、まっすぐだった。
子どもたちは、ぱっと顔を輝かせた。
「リュカ!」
「ほんとに来た!」
「すごい、すごいよ!」
リュカは、園庭に入ると、しばらく無言で立ち尽くしていた。
ポルカが、一歩だけ近づいて言う。
「……おかえり」
リュカは、うつむいたまま、
小さな声で答えた。
「……ただいま」
その瞬間、空気がすうっとやわらかくなった。
まるで、園そのものが「よく帰ってきたね」と言っているみたいだった。
*
その日は、歓迎のひるごはんだった。
サリアが、リュカの好きな味を思い出しながら、やさしいスープを作ってくれた。
「ふしぎだな。まだ一度しか来てないのに、なんとなく覚えてる」
サリアが笑うと、リュカも照れたようにうなずいた。
トトラは、リュカの荷物を見て目を丸くした。
「ちいさい袋だなー!それだけで来たのか?」
「べつに、たいしたもん、持ってないし」
「じゃあ、ここにあるもの、いっぱい持ってけよ!」
ルウは、リュカの背中にそっと風を当てた。
「暑くないように、なつ風をあげる」
「ありがとう」
子どもたちは、自然に輪の中に彼を迎え入れていた。
誰も、「ようこそ」なんて言わなかったけれど──
その空気は、確かに“仲間”のもので。
旗の下。
風にゆれる白い布の真ん中にある“て”のマークが、
いちだんと鮮やかに見えた。
*
その夜、ゆかりの記録帳にはこう記された。
帰ってくるということは、
遠くへ行ったからこそ、意味がある。
そして、迎える側の「おかえり」があって、
その場所はほんとうに、“居場所”になる。




