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『異世界ほいくえん』~この世界に、こどもがいるかぎり~  作者: 4MB!T
第3章「なつ、そとのせかいへ」
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第50話 リュカ、くる

 その日の朝は、いつもとちがう風が吹いていた。


 涼しさがまじる風は、

 何かがはじまる予感のようで、

 子どもたちは、落ち着かない様子で園庭をそわそわ歩き回っていた。




「ねえ、今日って、もしかして……」

「くるの?」「ほんとに?」




 ポルカは、旗の下に立って、門のほうをじっと見ていた。


 ミィナは、近くの草をむしりながら、そっとつぶやいた。


「……ほんとに、くるといいね」




 そこへ──


「誰か、来た!」


 トトラの大声が響いた。




 門の向こうに、小さな影が見えた。


 草の道をゆっくりと歩いてくるその姿は、

 見まちがえるはずもない。




 リュカだった。




 肩に小さな袋をひとつかけ、

 少しだけ、緊張したような表情で。

 でも、その歩みは、まっすぐだった。




 子どもたちは、ぱっと顔を輝かせた。


「リュカ!」


「ほんとに来た!」


「すごい、すごいよ!」




 リュカは、園庭に入ると、しばらく無言で立ち尽くしていた。


 ポルカが、一歩だけ近づいて言う。


「……おかえり」




 リュカは、うつむいたまま、

 小さな声で答えた。


「……ただいま」




 その瞬間、空気がすうっとやわらかくなった。


 まるで、園そのものが「よく帰ってきたね」と言っているみたいだった。




 *


 その日は、歓迎のひるごはんだった。


 サリアが、リュカの好きな味を思い出しながら、やさしいスープを作ってくれた。


「ふしぎだな。まだ一度しか来てないのに、なんとなく覚えてる」


 サリアが笑うと、リュカも照れたようにうなずいた。




 トトラは、リュカの荷物を見て目を丸くした。


「ちいさい袋だなー!それだけで来たのか?」


「べつに、たいしたもん、持ってないし」


「じゃあ、ここにあるもの、いっぱい持ってけよ!」




 ルウは、リュカの背中にそっと風を当てた。


「暑くないように、なつ風をあげる」


「ありがとう」




 子どもたちは、自然に輪の中に彼を迎え入れていた。


 誰も、「ようこそ」なんて言わなかったけれど──

 その空気は、確かに“仲間”のもので。




 旗の下。

 風にゆれる白い布の真ん中にある“て”のマークが、

 いちだんと鮮やかに見えた。




 *


 その夜、ゆかりの記録帳にはこう記された。


 帰ってくるということは、

 遠くへ行ったからこそ、意味がある。


 そして、迎える側の「おかえり」があって、

 その場所はほんとうに、“居場所”になる。



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