第46話 かえる場所
夏の実地研修も、いよいよ最後の日が近づいていた。
朝の広場には、荷造りを終えた袋や、
思い出がつまった小さな品々がならんでいる。
子どもたちは、少しだけそわそわしていた。
「もう、かえるんだね……」
ポルカがポツリと言う。
「なんか、あっというまだったな」
トトラが荷物を背負いながら、しみじみとつぶやく。
シェムは、手帳にぎっしりと記録した地図とメモを抱え、
イーリスは川の水をそっとすくって、光にかざしていた。
ルウは、空を見上げながら、
やさしい風をひとすじ吹かせた。
リュカは、みんなの様子を少し離れた場所から見ていた。
そして、思い切ったように、歩み寄ってきた。
「おれ、園に──
いっても、いいか?」
ポルカは、まるでずっとそれを待っていたみたいに、にっこり笑った。
「もちろん!」
「きみのかえるばしょ、ちゃんとあるよ」
ミィナもそっと言った。
リュカは、うつむきがちに、それでも力強くうなずいた。
「……ありがとう」
*
帰り道の馬車の中。
子どもたちは、それぞれに思い出を抱えていた。
畑の土のにおい。
川の水のひんやりした感触。
夜空にひろがった星の道。
そして、リュカと過ごした日々。
トトラが、ポルカに耳打ちする。
「なあ、また“そと”いきたいな!」
「うん。でも、まずは……かえるんだよね」
ポルカが笑った。
風が、カーテンをふわりと持ち上げた。
その向こうに、あの旗が見えた。
白地に、ぐにゃぐにゃの線。
赤、青、金、緑の模様。
そして、まんなかに、小さな“て”のマーク。
「ただいま!」
馬車を降りた子どもたちが、一斉に叫んだ。
旗が、風のなかでやさしく揺れた。
*
その夜、ゆかりの記録帳にはこう記された。
かえる場所は、建物ではない。
そこに「ただいま」と言える人たちがいること。
それが、子どもたちにとっての「ほんとうの居場所」になる。




