第45話 なみだのわけ
ユレ村での暮らしにも、慣れてきたように見えた頃。
それでも、小さなすれ違いは、ふいに顔を出した。
その日、川辺での掃除作業中だった。
リュカが拾った流木を、力いっぱい投げた拍子に──
それがトトラたちの作った小さな水車にぶつかり、壊してしまった。
「なにすんだよ!」
トトラが怒鳴った。
「わざとじゃねえよ!」
リュカも怒ったように叫び返す。
すぐにゆかりたちが駆け寄り、間に入った。
だけど、そのあとも、
リュカはどこか、ふてくされたまま、口をきこうとしなかった。
*
午後、村の裏手の林。
リュカは、ひとりで地面に小石を投げていた。
ポルカがそっと近づいて、となりに座る。
「……かなしいの?」
リュカは、返事をしなかった。
でも、手に持っていた石が、
ぽろりと膝の上に落ちた。
「おこったのは、ほんとだけど。
でも、ほんとは──」
リュカは、かすれた声でつぶやいた。
「おれ、こわかったんだ。
また、ここでも、ひとりになるんじゃないかって」
ポルカは、そっとリュカの手を取った。
「だいじょうぶだよ。
わたしたち、もう“なかま”だもん」
トトラも、あとから遅れてやってきた。
バツが悪そうに、頭をかきながら。
「……わりぃ。
怒ったけど、ほんとは、すげーびっくりしただけなんだ」
リュカは顔をあげた。
トトラの手も、ポルカの手も、
すぐそこにあった。
すこしだけ、リュカの目が赤くなった。
でも、それを指摘する子はいなかった。
ただ、
そっと、そばにいるだけだった。
*
夜。
星空の下。
リュカは、子どもたちの輪の中に座っていた。
特別な言葉はなかった。
でも、火を囲んでいるだけで、
ぽかぽかとした温かさが、胸に広がった。
「ここに、いていいんだ」
リュカは、心の中でそっと思った。
誰にも聞こえない声で。
*
その夜、ゆかりの記録帳にはこう記された。
怒りの裏側には、
さびしさや、不安が隠れている。
それに気づいて、
そっとそばにいられる大人でありたい。




