第43話 なつのあしあと
ユレ村での実地研修がはじまった。
朝、目を覚ますと、窓の外には朝もやがたちこめ、
川のせせらぎが静かに響いていた。
子どもたちは、それぞれに支度を整え、
村の広場へと集まった。
今日の仕事は、村の畑の手伝いと、川辺の掃除だった。
「おれ、スコップもつ!」
トトラがはりきって走り、
ルウはそっと風を動かして、落ち葉をあつめた。
シェムは真剣な顔で種を植える列をまっすぐにならべ、
イーリスは、水たまりをぴかぴかにするため、手をそっとかざした。
ポルカは、はじめて見る作物の芽を、興味深そうに見つめた。
「これ、なにになるの?」
「にんじんだよ」
村の男の子が答える。
「ふーん……ちいさいのに、がんばってるね」
ポルカは、土に指で小さな丸を描いた。
その横で、リュカが無言で草むしりをしていた。
ミィナがそっとたずねた。
「リュカ、こういうの、すき?」
リュカは、うつむいたまま答えた。
「べつに。
……でも、やらないと、ここでは居場所ないから」
ミィナはそれを聞いて、なにも言わずにうなずいた。
土に触れる指先が、
リュカの心にも、すこしだけ土をかけているような気がした。
*
午後は、川辺の掃除。
川の水は透きとおり、
小さな魚たちがきらりと光りながら泳いでいた。
「きれい……」
イーリスが、そっと手を伸ばした。
ポルカとルウは、網を持って小枝や葉っぱをすくい、
トトラは大きな流木にのぼって「ドラゴンごっこ」を始めた。
シェムは川岸の地図をスケッチして、
ミィナは小さな石を集めて、火打ち石を探していた。
リュカは、川の上流に立って、じっと流れを見つめていた。
──この水は、どこからきて、どこへいくのだろう。
そんなふうに考えているような横顔だった。
*
夕方。
広場で、村の人たちと一緒に、ちいさな夕市が開かれた。
木の実、薬草、手編みのかご。
それぞれの手で作られたものが、机にならべられていた。
ポルカが、木の実のネックレスを見つけた。
「これ、園の旗につけたら、かわいいかも!」
「それ、いいね」
ゆかりも微笑んだ。
子どもたちは、ひとつずつ、小さなものを選んだ。
自分だけの“夏のおみやげ”にするために。
リュカは──なにも買わなかった。
ただ、村の空気を、静かに感じているようだった。
*
夜。
焚き火を囲みながら、子どもたちは話した。
「なつって、すごいね」
「なんか、あついだけじゃなくて……」
「いろんなことが、うまれてる」
「うん」
火のあかりに照らされて、
ひとりひとりの顔が、やさしく揺れた。
*
その夜、ゆかりの記録帳にはこう書かれた。
夏は、からだも心も、世界にひらかれる季節。
ふれる、うごく、つながる。
その一歩一歩が、子どもたち自身の「なつのあしあと」になる。




