表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『異世界ほいくえん』~この世界に、こどもがいるかぎり~  作者: 4MB!T
第3章「なつ、そとのせかいへ」
41/51

第41話 ゆびきりの やくそく

 夏の朝。

 園庭には、かすかに湿った土の匂いと、やわらかい風が流れていた。


 朝の集いが終わったあと、シーが掲示板に新しい紙を貼った。


「なつの実地研修 じゅんび開始」


 それを見上げた子どもたちが、わっと声を上げる。


「じっちけんしゅうってなに?」

「たび? たびするの!?」


「どこいくのかな……」




 ゆかりは、集まった子どもたちの輪に入って、静かに話しはじめた。


「実地研修っていうのはね、園の外に出て、いろんな人や場所と出会って、

 ちょっとだけ、自分でできることをふやしてくることなんだよ」


「そとに、いくんだ……」


 ポルカが小さくつぶやいた。




 そと、という言葉に、子どもたちは胸を高鳴らせながらも、少しだけ不安そうな顔をしていた。




 *


 その日の昼休み。

 ポルカはひとり、園庭のはしっこでしゃがみこんでいた。


 草をむしったり、小石を並べたりしながら、じっと何かを考えている。


 そこに、ミィナがそっと隣に座った。


「どうしたの?」


 ポルカは少し迷ったあと、ぽつりと打ち明けた。


「……そとにいったら、“ここ”じゃなくなっちゃうのかなって」


「……ふーん」


 ミィナはしばらく考えて、それから手を差し出した。


「じゃあ、やくそくしよ」




 ポルカはきょとんとしながらも、差し出されたミィナの小さな手に、自分の手を重ねた。


 ふたりは、ぎゅっと指をからめる。


「ゆびきり、げんまん──」


「──うそついたら、おばけがでる!」


 ふたりの声が重なって、にやりと笑いあった。




「どこにいっても、ここはここだよ。ちゃんともどってくる」


 ミィナのことばに、ポルカは安心したようにうなずいた。




 *


 実地研修に向けた準備は、その日から本格的にはじまった。


 地図をひらき、行き先のことを調べる時間。

 持ちものリストをみんなで考える時間。

 そとの世界のルールを学ぶ時間。




 トトラは、「ぜったいドラゴンに会う!」とわくわくしていた。


 シェムは、村のあいさつのことばを何度も練習していた。


 ルウは、飛びすぎないように風の調整をしていた。


 イーリスは、水の気配を読むために、小さな湖に向かって手を伸ばしていた。


 ポルカも、少しずつ、そとに出ることを受け止めはじめていた。


「ぼく、だいじょうぶかも。

 だって──かえるばしょ、ちゃんとあるから」


 小さな声だったけれど、しっかりとした響きだった。




 園のまんなかで、旗がふわりと揺れた。


 白地に、ぐにゃぐにゃの線。

 赤、青、金、緑──それぞれのしるしが重なりあって、

 中央には、子どもたちの“て”のかたち。




 ゆかりはその旗を見上げながら、心の中でつぶやいた。


(みんな、どこにいても、ちゃんとつながってる)




 *


 その夜の記録帳に、ゆかりはこう記した。


 子どもがそとに出るとき、

 それは「自分の足で世界にふれる」一歩。


 かえるばしょがあると信じられること。


 その信頼が、子どもたちの背中をそっと押す。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ