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『異世界ほいくえん』~この世界に、こどもがいるかぎり~  作者: 4MB!T
第2章「みつかる こたえ、ひらく こころ」
40/51

第40話 あしあと、そして なつのこと

 園庭のすみに、小さな黒板が置かれた。


 その上には、チョークでこう書かれていた。


「ふりかえりの ひ」


「今日はね、みんなで“これまで”をふりかえって、“これから”をちょっと考える日なんだよ」


 ゆかりの言葉に、子どもたちは首をかしげる。


「ふりかえり……って、うしろみるの?」


「うしろ、っていうより、“ここまでどうだったかな”って、自分の“あしあと”を見てみるの」




 *


 保育室では、子どもたち一人ひとりに**“ふりかえりシート”**が配られた。

 それは、文字ではなく絵やしるしで気持ちを残せるよう、工夫された紙だった。


 トトラは、ひのたまマークを何個も描き、「けんかいっぱいしたけど、つよくなった」と言った。


 ミィナは、ちいさなうずまきを描き、「うたをみつけた」とひとこと。


 シェムは、四角い枠の中に、青と黒で何重もの線を描いた。「しずかでも、伝わるときがあった」


 ルウは、羽のかたちと、ぐるぐるの風を描いた。「とべるようになった」


 イーリスは、水玉模様と、つながる輪を描いた。「しるしを、あげたり、もらったりした」


 ポルカは、園の全体図を小さく描いて、中央に「たいせつなばしょ」と書きそえた。




 壁には、手形で作った足あと模様の帯が飾られていく。

 それぞれの子どもが、自分の足跡の場所に、手形のスタンプを重ねた。




「わたしたち、こんなに歩いてきたんだね」

 ポルカが小さくつぶやく。


「この先は、なつがくる」

 ミュリエルが静かに言った。




 *


 午後、ゆかりが話した。


「なつは、“かわる”ことがたくさん起きる季節です。

 あつくて、ちょっとしんどいときもある。

 でも、いつもよりも大きくなるとき。

 そのぶん、そばにいる大人が、たくさん“みまもる”ことが大事なんです」


 サリアがそっと加えた。


「なつは、命のちからが強くなる。だから、だいじなこともたくさんある。

 こどもたちの中の“変化”に、気づけるようにしたい」




 *


 夕方。旗の下で、子どもたちは一列に並んで、それぞれの“あしあとシート”を空にかざして見せあった。


 そこには、言葉にできない感情が、形になって浮かんでいた。




 ゆかりの記録帳には、こう記された。


 子どもたちは、自分の歩みを「見つける」ことで、自信と実感を手に入れる。

 ふりかえる時間は、“止まる”のではなく、“次に進むための一歩”。


 この園は、また新しい季節に向かって、いっしょに歩き出す。



ここまでのご読了、心からありがとうございます。

この章は、保育園という場所が、子どもにとってどう変わっていくか”を主題として描きました。


「迎え入れる」「受けとめる」という第一章の段階を経て、

子どもたちは少しずつ、自分の心を表現するようになります。

ときにぶつかり、ときに黙り、ときにゆびきりをして、

ことばにできない気持ちを、それでもどうにかして伝えようとする姿は、

現実の子どもたちと重なるようで、書きながら何度も胸があつくなりました。


また、ゆかりがいったん園を離れることで、「ゆかりがいないときの保育」にも焦点が当たりました。

その穴を、サリアやミュリエル、シーたちが自然に埋めていく姿に、

この園が“ひとりの大人に依存しない場所”として、根を張りつつあることを感じていただけたなら嬉しいです。


そして、ミィナの火、シェムとトトラの衝突、遠くのともだちとの手紙のやりとり、

それぞれの小さな出来事が、ひとつの円のようにゆるやかにつながって、

最後の「ふりかえりのひ」で、ひとつの区切りを迎える──


まさに、育ちのなかで、自分で“選ぶ”ことに子どもたちが向き合った章だったと思います。


次章はいよいよ「夏」。

世界が広がり、子どもたちが園の外で出会うものたちと、どう関わっていくか。

どうぞ引き続き、見守っていただけたら幸いです。


4MB!T

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