第37話 ミィナの ふゆのうた
冬の園庭は、風が音を連れてくる。
かさかさ、さらさら──
木々のあいだから吹き抜ける空気が、地面をなでていく。
その日、ミィナはいつになく静かだった。
もともとおしゃべりな子ではないが、今日は特別に、言葉が遠いようだった。
「さむいの、すきじゃないの」
ぽつりとつぶやいた声は、炎のように揺れていた。
*
「じゃあ、ミィナちゃんは“どんなときがすき”?」
ゆかりがそう聞くと、ミィナは少し考えて──
「……あったかくて、くらくて、ひとりのとき」
「くらいの、すきなんだね」
「うん。ひかりが、よく見えるから」
その午後、室内では“音であそぶ”活動が始まった。
風のベル、水のひびき、木の音、石のふれあい。
子どもたちが自由に音をならすなかで、ミィナはひとつだけ、小さな金属のうつわを選んだ。
中に入っていたのは──火打石のセット。
「……これ、ならしてもいい?」
「もちろん」
ミィナは、慎重に石と石をこすった。
かちっ──
ぱっ、と一瞬だけ光る火花。
それは音というより、“ことばにならない想い”のようだった。
何度も、何度も。
石を鳴らしながら、ミィナは目を閉じた。
そして、ふいに、ことばをつむぐ。
「わたしのうたは、ほのおのしずく。
あついけど、さわると けむって、すぐに きえちゃう。
だけど、こころのなかでは、ずっともえてる」
誰も、声を出さなかった。
ただ、そのことばのリズムに、園が耳をすませていた。
風も止まり、空気が澄んだ。
「……ミィナ、それ、すてきな“うた”だね」
ゆかりがそう言うと、ミィナはちょっとだけはにかんで、
両手で火打石をそっと包んだ。
*
その夜の記録にはこう書かれた。
子どもが自分の気持ちに形を与えた瞬間、
それはもう、“表現”として立ち上がる。
音、火花、ことば。
ミィナは今日、自分だけの「うた」を見つけた。




