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『異世界ほいくえん』~この世界に、こどもがいるかぎり~  作者: 4MB!T
第2章「みつかる こたえ、ひらく こころ」
32/51

第32話 サリアのひみつレシピ

 朝の園。

 ゆかり不在の数日目。


「なんだか、ちょっとさみしいね」

 ポルカがぽつりとつぶやいた。


 ミィナは黙っていたが、朝の準備に少し時間がかかっていた。

 トトラも元気がないまま、座ったまま動かない。


 その空気を、サリアは感じ取っていた。




「さて、今日は……特別メニューの日です」


 朝の集いのあと、サリアが掲げたのは──木でできた古びたレシピ板。


「え?」「ごはんの、日?」

「なにそれ……?」


「ふふ。時庭先生がいないぶん、今日はわたしが“とくべつ”を作る日なのです」




 *


 サリアはかつて、育児支援のために異世界から召喚された竜人。


 保育技術は未経験だったが、“かぞくを養う”という力には秀でていた。

 そして彼女がとくに得意とするのは──おにぎり。




「にぎりたてはあついから、そっと持つのよ」

「でも、あついのが……なんか、すきかも」


 ポルカがじんわりと熱の伝わるおにぎりを両手に抱えながら、微笑む。




 サリアは、ひとりひとりに合わせた具材を選んでいた。


 トトラには、たくさん動けるよう焼き魚ほぐし+味噌。


 ミィナには、心をしずめるゆかり+白ごま。


 シェムには、刺激が少なくやわらかい豆と海苔。


 ルウには軽めで香りのよい柑橘果皮の酢漬け。


 ポルカには、なめらかで風味豊かな豆乳クリームとやさしい塩。


 イーリスには、海藻をまぜた潮味の炊き込みご飯。




「サリアせんせい、どうしてこんなにぴったりなの?」


 イーリスが聞くと、サリアは小さく笑った。


「食べものはね、たましいに近いから。

 どうしてるか、ひとくちで分かるのよ」




 *


 その日の午後、園にはたしかな“あったかさ”が戻っていた。


 旗がゆれる下で、子どもたちはおにぎりの絵を描き、

 お迎えに来たキールが思わず「うまそう……」とつぶやいた。




 サリアは最後に、自分用のひとつを握った。

 具はない、でも、心がこもっている白むすび。


「あなたの園、まもってますよ、時庭先生」




 *


 その夜の保育記録にはこう綴られた:


 食事は、からだをつくるだけじゃない。

 その子の“気持ち”に届くように作られたものは、言葉よりも深く、心に残る。


 その日、園は“ごはんの力”でひとつになった。



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