第32話 サリアのひみつレシピ
朝の園。
ゆかり不在の数日目。
「なんだか、ちょっとさみしいね」
ポルカがぽつりとつぶやいた。
ミィナは黙っていたが、朝の準備に少し時間がかかっていた。
トトラも元気がないまま、座ったまま動かない。
その空気を、サリアは感じ取っていた。
「さて、今日は……特別メニューの日です」
朝の集いのあと、サリアが掲げたのは──木でできた古びたレシピ板。
「え?」「ごはんの、日?」
「なにそれ……?」
「ふふ。時庭先生がいないぶん、今日はわたしが“とくべつ”を作る日なのです」
*
サリアはかつて、育児支援のために異世界から召喚された竜人。
保育技術は未経験だったが、“かぞくを養う”という力には秀でていた。
そして彼女がとくに得意とするのは──おにぎり。
「にぎりたてはあついから、そっと持つのよ」
「でも、あついのが……なんか、すきかも」
ポルカがじんわりと熱の伝わるおにぎりを両手に抱えながら、微笑む。
サリアは、ひとりひとりに合わせた具材を選んでいた。
トトラには、たくさん動けるよう焼き魚ほぐし+味噌。
ミィナには、心をしずめるゆかり+白ごま。
シェムには、刺激が少なくやわらかい豆と海苔。
ルウには軽めで香りのよい柑橘果皮の酢漬け。
ポルカには、なめらかで風味豊かな豆乳クリームとやさしい塩。
イーリスには、海藻をまぜた潮味の炊き込みご飯。
「サリアせんせい、どうしてこんなにぴったりなの?」
イーリスが聞くと、サリアは小さく笑った。
「食べものはね、たましいに近いから。
どうしてるか、ひとくちで分かるのよ」
*
その日の午後、園にはたしかな“あったかさ”が戻っていた。
旗がゆれる下で、子どもたちはおにぎりの絵を描き、
お迎えに来たキールが思わず「うまそう……」とつぶやいた。
サリアは最後に、自分用のひとつを握った。
具はない、でも、心がこもっている白むすび。
「あなたの園、まもってますよ、時庭先生」
*
その夜の保育記録にはこう綴られた:
食事は、からだをつくるだけじゃない。
その子の“気持ち”に届くように作られたものは、言葉よりも深く、心に残る。
その日、園は“ごはんの力”でひとつになった。




