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『異世界ほいくえん』~この世界に、こどもがいるかぎり~  作者: 4MB!T
第2章「みつかる こたえ、ひらく こころ」
31/51

第31話 ゆかり、ふるさとに帰る

「では、明日から時庭先生はしばらく帰省となります」

 シーが朝の集いで告げると、子どもたちの表情がぱっと曇った。


「ゆかりせんせい、いなくなるの……?」

「かえってくる?」「いつ?」


 ゆかりはみんなの前にしゃがみ、優しく言う。


「少しのあいだだけだよ。ふるさとに帰って、大事な人たちに会ってくるの。

 すぐ戻ってくるから、園のこと、よろしくね」




 *


 異世界からの一時帰還は、厳重な魔導枠を経て行われる。

 帰着地は、ゆかりがかつて家庭的保育施設を準備していた、日本のとある山里。


 かつての日常と、夢の途中だった場所。

 見慣れた坂道、細い小川、木造の平屋──


 風が匂いを運んできた瞬間、胸の奥がきゅっとなった。


(……たしかに、ここにいた。今も、帰ってきたんだ)




 *


 数年ぶりの旧友との再会は、懐かしい畳の部屋で。


「まって、何それ……え、異世界!? マジで?」


「うん。召喚されて、今はそっちで保育園やってる」


「ふつうに言うけど、やばすぎでしょ! 異世界!?」


「ほんとにあるの!? ドラゴンとか精霊とか、そういうの!?」


「……ある。あと、テレパシーとか空飛ぶ子もいて、すごくにぎやか」


 しばしの沈黙のあと、誰かがぽつりと。


「……でも、そういう子どもたちがいるってことは、

 あっちにも、保育士が必要なんだね」


「そう。ほんとうに、そうなんだよ」




 *


 ゆかりは、自分たちで描いた“園の旗”のコピーを見せた。

 不格好な線。まるくない円。まんなかの、小さな“て”のマーク。


「子どもたちが、自分たちで“園のしるし”を作ったの。

 この手で描いたものが、自分たちの居場所のかたちになったんだよ」


 しばらく見つめたあと、先輩保育士がほほ笑んだ。


「……なんか、いいね。“保育”って、やっぱりどこにいても変わらないんだね」


「どんな場所でも、“いま、ここで育ってる”ってことには、まちがいないから」




 *


 夜、ゆかりは仮宿でひとり、記録帳をひらく。


 異世界に行っても、私は“保育士”だった。

 不思議なのは、場所じゃない。


 子どもたちの声に寄り添って、日々を積み重ねていく。

 それができるなら、そこがどんな世界でも、“保育”は育つ。


 そして最後に、そっとページのすみにつぶやく。


「……はやく帰りたいな。あの旗の下に」




 *


 そのころ異世界の園では、ミュリエルが“今日のゆかり先生レター”を読み上げていた。


 ポルカが言う。


「ねえ、せんせいがかえってきたら……おかえりって、ちゃんと言おうね」


 シェムが、小さな紙に「おかえり」の文字を書きはじめていた。



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