第29話 まもる、こわれる、なおす
昼下がりの保育室。
窓辺に並べられた“たからもの棚”には、子どもたちが持ち寄った思い出の品が並んでいる。
その中に、ミィナの赤い石があった。
ほんのりと熱を帯び、光をうけて淡く輝く石。
彼女が園に来た当初から、ずっと大切にしているもの。
その日、事件はふいに起きた。
ルウが近くで羽ばたいた拍子に、風の流れが強くなり──
ぽとん、と石が床に落ちた。
「……っ!」
ぱりん。
小さな音とともに、石の表面がひび割れた。
ミィナの目が見開かれ、肩が震えた。
「──なんで……っ」
ルウはその場に固まったまま、動けなくなった。
「……ご、ごめん……わざとじゃ……」
ミィナは何も言わず、石を抱きしめて、走っていった。
*
その日の午後、保育室には重い空気が流れていた。
ミュリエルはそっとルウの隣に座り、何も言わずに背を撫でた。
ゆかりはミィナのもとに行き、ただ静かに座った。
しばらくして、ミィナがぽつりと口を開いた。
「……まもってたのに。だいじにしてたのに。こわれた」
「うん。だいじにしてても、こわれることってあるんだよね」
「……なおらないなら、もう、いらない」
「ほんとうに?」
ミィナは黙りこむ。
ゆかりは、静かに言った。
「こわれたあとに、“それでもだいじ”って思えたら、それはもう“もっとたいせつ”なんだと思うよ」
*
夕方。
ルウがそっとミィナに近づいた。
「……これ、ぼくがすきな羽。まもれなかったけど、もし……よかったら、いっしょに、なおしてみたい」
手渡されたのは、風色の細い羽根だった。
ミィナは、赤い石を両手で包み込みながら、少しだけうなずいた。
「……なおしてみる。ひび、ぜんぶは消えないかもだけど……」
「うん、それでもいい」
シーが、小さな修復キットをそっと差し出した。
「“なおす”行為は、過去をなかったことにするのではなく、“新しい意味”を与える処理です」
*
その夜、ゆかりの記録にはこう綴られた。
こわれることは、失敗ではない。
守れなかった悲しみの中に、“まもりたいという気持ち”が確かに育っている。
子どもたちは、“なおす”ことでまたひとつ、強くやさしくなっていく。




