第27話 おとなりさんが、やってきた
保育園の東側、ちょっとした雑木林をはさんだ先に──
小さな、古びた一軒家があった。
そこに住んでいるのは、ハナエさん。
齢を重ねたフクロウの獣人の女性で、かつては薬師として都市の医療局にも関わっていたという人物だ。
だがここ数年は人づきあいを断ち、ひっそりと暮らしていた。
それでも、草木の手入れや空気の流れで、彼女の“気配”は園の周囲にしずかに感じられていた。
その朝、門の前に不思議な籠が置かれていた。
中には──手作りの干し果実、山草茶の束、そして白い花が一輪。
「これは……?」
「たぶん、“ごあいさつ”だと思います」
ミュリエルがそっと言った。
*
ゆかりが手紙をしたためて返事を出すと、
翌週の午後、ハナエさんがひょっこりと園を訪れた。
「わしは、ただの隣人じゃ。なにもできはせんが……こどもの声が聞こえるのは、ええもんじゃの」
彼女の声は低くてあたたかく、まるで森の奥の風のようだった。
トトラとミィナは少し警戒した様子で後ろからのぞき見し、
イーリスは目をまるくして「しおのにおい、しない……けど、なんかすき」とささやいた。
「よければ、一緒にお茶をどうですか?」
園の裏庭で、ゆかりと子どもたちが茶会をひらいた。
ハナエさんは、ゆっくり腰を下ろしながら、干し果実をひとつ口に入れる。
「ふむ……ここは、ずいぶんといい“気”がめぐっておる」
*
その日、ハナエさんは子どもたちに薬草の話をしてくれた。
「この葉っぱは、お腹がいたいときにいい」
「これは火傷に使う、けれど触るとちょいとピリッとする」
「この実はな、ほっぺがにこにこになるんじゃ」
ポルカが熱心にメモを取り、シェムは静かに葉の形をスケッチした。
別れ際、ハナエさんはこう言った。
「ここにおる子らは、みな“ちがう”けど、ちがうままに根をはっておる。
わしもそれを見守らせてもらおうかの」
*
その夜、ゆかりは記録にこう書いた。
地域の人とのつながりは、
園が“ひらかれた場所”であることの証。
支援でなくてもいい。見守り、気にかけるだけでも、
子どもたちの“居場所”は、ぐっと強くなる。




