第26話 えがおを たべる
前日の“まちあるき”で、子どもたちが選んだ果物──星桃。
今日は、それをみんなで食べる日だった。
「ひとつぶずつ、わけっこしようね」
ゆかりがそう言って、台所で星桃をていねいに切り分けていた。
星桃は切ると中がほんのり星形にひかり、甘い蜜のような香りがふわりと広がる。
「きれい……」
「においだけで、おなかがなるー」
「きらきらしてる。これ、ほんとにたべもの?」
*
みんなで輪になって座る。
白いお皿の上に、ひとりひとつの星桃のかけら。
でも、その一つひとつが、昨日の“まち”とつながっている。
「いただきます」
その声とともに、手をのばす。
ひとかけらを口に入れると、ふわっととろけて、やさしい甘さが広がった。
トトラは目をまるくして「うわぁっ」と声をあげ、
ミィナは少しだけ微笑みながら、そっとかみしめた。
ポルカは手をあたためながら香りを楽しみ、
シェムはゆっくりと、一番小さいかけらを大事そうに口にした。
イーリスは、食べる前に一瞬だけ目を閉じて──「……うれしい」とつぶやいた。
「“おいしい”ってね、味だけじゃないんだよ」
ゆかりが話し出す。
「みんなで一緒に食べて、“たのしい”とか“うれしい”があると、もっとおいしく感じるの」
「……えがおも、たべてるってこと?」
ポルカが問い返した。
「そう。たぶん、“えがお”って、おいしさのスパイスなんだよ」
*
午後のお絵かきの時間。
子どもたちは、思い思いに“星桃を食べたときの気持ち”を描いた。
ピンクの光、にじむ甘さ、広がる笑顔。
ポルカの絵には、まあるい果実と、ふわっと浮かんだ“ことばのない笑顔”が描かれていた。
ミュリエルがそれを見て、静かに言う。
「きっと、今日は“心の味覚”が育った日ですね」
*
その日、ゆかりの記録にはこう書かれた。
食事は、ただの栄養ではなく、
“だれかとわけあう時間”でもある。
おいしいね、たのしいね。──その共有が、関係をつくる。
子どもたちは今、“いっしょに味わう”という力を育てている。




