第25話 はじめての まちあるき
その日は、特別な朝だった。
「今日は園外活動の日だよ〜。みんなでお出かけします」
ゆかりの一声に、子どもたちの目が一斉に輝いた。
「ほんと!?」「どこ? どこにいくの?」「おそとって……町の中?」
行き先は、園の近くにあるカナリア都市・北市場の朝市。
冒険者や商人、獣人の露店主たちが並び、にぎやかで活気のある場所。
子どもたちが“社会の空気”に触れるための、はじめてのまちあるきだった。
*
歩く列は、サリアが先頭、ゆかりとシーが中央、ミュリエルがしんがり。
子どもたちは手をつなぎながら、一歩ずつ通りを進む。
ポルカは音に敏感なため、耳をふさぎながらも前を向いていた。
ルウは上空に舞い上がらないように、背中の風を抑えていた。
ミィナは手を握ることで、自分の熱をコントロールしていた。
シェムは帽子のつばを深くかぶって、人目を避けていた。
イーリスは水の膜をほんのりまといながら、つぶやいた。
「にぎやかすぎるけど……すき。うみとはちがうにおい」
*
市場では、町の人々が目を見開いた。
「おや? あの子たち、もしかして……あの“異世界保育園”の?」
「へぇ、いろんな子がいるもんだ」
「けっこう、お行儀いいのね……」
少し離れたところから聞こえてくる、そんな声のかけら。
それはまだ“好奇心”混じりの視線だったが、敵意はなかった。
ゆかりは、子どもたちがそれを敏感に感じ取っていることを知っていた。
だからこそ、声をかける。
「みんなが“まちのなか”にいるってこと、すごく大事だよ」
「だいじ?」
「うん。ここにいるって、まちの人に知ってもらうだけで、つながりができるから」
「……じゃあ、にこってしてみる」
トトラが顔をくしゃっとさせて笑う。
その笑顔に、市場の誰かが小さく手をふった。
*
買い物は控えめに。
季節の果物を一つ、みんなで選び、帰ってからみんなで分けて食べることに。
ポルカは色を、シェムは重さを、ミィナは温度を、イーリスはにおいをチェックし──
選ばれたのは、まるくてみずみずしい“星桃”。
「このおみせの人、やさしかったね」
「うん、笑ってた」
「ちょっと、こわくなかった」
子どもたちの言葉の中に、“まちと出会った”実感がひっそりと息づいていた。
*
帰り道、イーリスがふと空を見上げてつぶやく。
「わたし、ここの“まち”がすこし好きになった」
ゆかりは、心の中で静かに頷いた。
子どもたちが社会と出会うことは、
世界に“自分のかたち”を見つける第一歩。
異世界だからこそ、その一歩は大切にしたい。




