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『異世界ほいくえん』~この世界に、こどもがいるかぎり~  作者: 4MB!T
第2章「みつかる こたえ、ひらく こころ」
25/51

第25話 はじめての まちあるき

 その日は、特別な朝だった。


「今日は園外活動の日だよ〜。みんなでお出かけします」


 ゆかりの一声に、子どもたちの目が一斉に輝いた。


「ほんと!?」「どこ? どこにいくの?」「おそとって……町の中?」


 行き先は、園の近くにあるカナリア都市・北市場の朝市。

 冒険者や商人、獣人の露店主たちが並び、にぎやかで活気のある場所。


 子どもたちが“社会の空気”に触れるための、はじめてのまちあるきだった。




 *


 歩く列は、サリアが先頭、ゆかりとシーが中央、ミュリエルがしんがり。

 子どもたちは手をつなぎながら、一歩ずつ通りを進む。


 ポルカは音に敏感なため、耳をふさぎながらも前を向いていた。

 ルウは上空に舞い上がらないように、背中の風を抑えていた。

 ミィナは手を握ることで、自分の熱をコントロールしていた。

 シェムは帽子のつばを深くかぶって、人目を避けていた。

 イーリスは水の膜をほんのりまといながら、つぶやいた。


「にぎやかすぎるけど……すき。うみとはちがうにおい」




 *


 市場では、町の人々が目を見開いた。


「おや? あの子たち、もしかして……あの“異世界保育園”の?」


「へぇ、いろんな子がいるもんだ」


「けっこう、お行儀いいのね……」


 少し離れたところから聞こえてくる、そんな声のかけら。

 それはまだ“好奇心”混じりの視線だったが、敵意はなかった。




 ゆかりは、子どもたちがそれを敏感に感じ取っていることを知っていた。


 だからこそ、声をかける。


「みんなが“まちのなか”にいるってこと、すごく大事だよ」


「だいじ?」


「うん。ここにいるって、まちの人に知ってもらうだけで、つながりができるから」


「……じゃあ、にこってしてみる」


 トトラが顔をくしゃっとさせて笑う。


 その笑顔に、市場の誰かが小さく手をふった。




 *


 買い物は控えめに。

 季節の果物を一つ、みんなで選び、帰ってからみんなで分けて食べることに。


 ポルカは色を、シェムは重さを、ミィナは温度を、イーリスはにおいをチェックし──

 選ばれたのは、まるくてみずみずしい“星桃”。


「このおみせの人、やさしかったね」


「うん、笑ってた」


「ちょっと、こわくなかった」


 子どもたちの言葉の中に、“まちと出会った”実感がひっそりと息づいていた。




 *


 帰り道、イーリスがふと空を見上げてつぶやく。


「わたし、ここの“まち”がすこし好きになった」


 ゆかりは、心の中で静かに頷いた。


 子どもたちが社会と出会うことは、

 世界に“自分のかたち”を見つける第一歩。


 異世界だからこそ、その一歩は大切にしたい。



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