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『異世界ほいくえん』~この世界に、こどもがいるかぎり~  作者: 4MB!T
第2章「みつかる こたえ、ひらく こころ」
24/51

第24話 みずのなかのことば

 イーリスが園に通い始めて数日。


 彼女はよく話す子ではなかったが、

 水の音や光の揺れを通して、たしかに“気持ち”を表現していた。




 ある日、静かな午前の室内。

 ポルカとシェムが、絵の具を使って紙の上に“にじみ”を作っていた。


「この色、イーリスちゃんの水に似てるね」

 ポルカが淡い青をさして言う。


「……たぶん、ことばのかわりにしてるんだと思う」


 シェムがつぶやく。




 そのとき、イーリスがそっと近づき、ふたりの絵の上に水のしずくをぽとりと垂らした。

 紙のうえで色が混ざり、ふわりと広がっていく。


「……これ、うれしいときの色」


「え?」


「うれしいとき、うみのなかでは、こういうふうにひろがる。だから──“ありがとう”って、言った」




 ポルカのからだがふわりと揺れた。


「すてき。……わたしも、こんなふうに気持ち、つたえたい」


 シェムは黙っていたが、

 自分の紙の上に、そっと青をにじませた。




 *


 午後、ゆかりは“自由表現”の時間に、絵の具と水の用意をした。

 テーマは決めない。ただ、それぞれが“なにかをにじませる”。


 イーリスは淡い青を何重にも重ねて“海の底”を描いた。

 ポルカは虹色の波を。

 ミィナは赤いしずくを紙の端に浮かべ、そっとにじませた。


 そのにじみが、お互いの紙にふれて、色がまざる。




「これは……“いっしょにいる”ってこと?」


「うん、“ことばじゃないことば”だね」




 *


 その日の終わり。


 イーリスは帰り際に、ゆかりに小さな貝殻を手渡した。


「これは?」


「“きもちをしまっておくもの”。わたしのところでは、だいじな人に渡す」


「ありがとう。……とっても、うれしい」




 ゆかりは記録にこう記した。


 気持ちを伝える方法は、言葉だけじゃない。

 色、音、かたち、光──

 子どもたちは、ありのままの“表現”を通して関係を築いていく。


 それは、異種族間でも、たしかに育つ“ことば”。

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