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『異世界ほいくえん』~この世界に、こどもがいるかぎり~  作者: 4MB!T
第2章「みつかる こたえ、ひらく こころ」
22/51

第22話 かすみちゃんのなまえ

かすみ──それは、まだ“仮の呼び名”だった。


フードを目深にかぶったその子は、園に通い始めて数日が経つというのに、まだひとことも自分の名前を名乗っていなかった。


キールの民政局による送迎は、毎朝きっちり行われ、帰りもぬかりない。

だが、キールも名前を聞き出すことはできなかったという。


「“なまえ”って、そんなにこわいものなのかな」


トトラがつぶやくと、ミィナが小さく答えた。


「だいじすぎて、こわくなること、あるよ」


 



この日、園では“名前の由来”を話す時間が設けられた。


「みんなは、どんなふうに名前をつけられたのか、知ってる?」


ゆかりが問いかけると──


「おれ、“つよそうな音”って、パパが決めた!」


「ミィナは、赤い石みたいって言われたの」


「ルウは風の音に似てるって、つけてもらったの」


「ポルカはね、ぽるぽるってお腹が鳴ったとき、生まれたんだって!」


わいわいと盛り上がる子どもたち。


そんななかで、かすみは少しだけ肩をすくめて、そっと目を伏せていた。


 


その様子を見て、シェムがぽつりと声を出す。


「……かすみちゃん、“かすみ”って、すてきな名前だと思う」


「……でも、それ、“ほんとの”なまえじゃない」


「じゃあ、“ほんと”って、どこから?」


 


その言葉に、みんなが静かになった。


ゆかりは、そっと語りかけた。


「たとえば、“かすみ”が“いまのきもちにぴったり”なら、それは十分“じぶんの名前”になっていいんだよ」


「なまえってね、“よばれるため”だけじゃなくて、“つながるため”のものなんだ」


 


しばらくの沈黙のあと、かすみは小さくうなずいた。


「……じゃあ、いまは、“かすみちゃん”で、いい」


「うん!」

「やった!」

「はじめまして、かすみちゃん!」


みんなが一斉に、呼びかけた。


その声に、かすみは初めて、ほんの少しだけ口元をゆるめた。


 



その日の帰り。


キールがいつもどおり迎えに来たとき、かすみは彼の手を取って、言った。


「ねえ、かすみちゃんって……いい名前?」


「もちろん。すごく、似合ってるよ」


 



ゆかりの記録には、こう記された。


名前は、よばれることで“育つ”。

自分で選んだり、だれかからもらったり。

そのどれもが、“関係”の中で生まれるもの。

そして、子どもが“それでいい”と思えた瞬間が、ほんとうの“名づけ”になる。

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