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『異世界ほいくえん』~この世界に、こどもがいるかぎり~  作者: 4MB!T
第2章「みつかる こたえ、ひらく こころ」
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第21話 しらない子が、門の外

 朝、いつものように子どもたちが集まりはじめたころ。

 園の門の向こう側に、見知らぬ小さな姿が立っていた。


 フードのついたマントに身を包み、顔はうつむいて見えない。

 靴はぼろぼろで、手にはなにも持っていなかった。


「せんせい、あの子──」


 トトラが気づいて指をさすと、ルウも静かに降りてきた。

 ミィナは言葉を発さずに、そっとその子を見つめた。




 そのとき、後方から聞きなれた足音。


「おはようございます、時庭先生。ちょっと急な話で申し訳ない」


 民政局の若手役人、キールが軽く手を挙げて近づいてきた。


「この子、保護申請が出たばかりで、名前も不明。

 出自は非公開扱いなんですが、医療・保育の必要性が高いと判断されて、緊急に配属先を探してたんです」




 ゆかりはゆっくりとうなずき、その子の前にしゃがみ込んだ。


「こんにちは。ここに来てくれたの?」


 うつむいたままのその子は、かすかにうなずいた。

 でも、名乗ることも、目を合わせることもなかった。


「お名前、あるかな?」


「……わからない、もう、ないかも」


 その声は、まるで風に消えそうなほど小さかった。




 *


「本日、新たな受け入れ申請対象児が門前に現れました」


 シーが端末で確認する。


「種族は不明。魔素反応に揺れがあり、“変異性”の兆候が観測されています」


「変異性……?」とサリアがつぶやく。


「つまり、“まだなにかに変わる途中”の子ってこと」とミュリエルが解説する。


「受け入れますか?」とシーが問うと、ゆかりは迷わず答えた。


「もちろん」




 キールが頭を下げる。


「この子、しばらくは保護措置下にあるので、当面の登降園は民政局の僕が代理で送迎します。連絡帳もこちらで預かります」


「ありがとうございます。安心して任せてください」




 *


 子どもたちは、その子をじっと見つめていた。


 最初に声をかけたのは、ポルカだった。


「いっしょに、ここ、いてもいいよ」


 その子は、おそるおそるポルカに近づき、手をにぎった。

 その瞬間、マントの袖の奥から、小さな光がふわりと浮かんだ。


「……光ってる?」


「うん。きっと、うれしいってことだよ」




 *


 ゆかりはその日の記録に、まだ名のないその子のことを“かすみ”と仮呼称した。


 名前のない子に、名前をあげることはできない。

 でも、“いてくれていい”という場所を先にわたすことはできる。

 関係は、呼びかける声からはじまる。




 その日、園にはひとつ、新しいいすが増えた。

 その上には、まだ誰のものでもない小さな布の名札が置かれていた。



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