第14話 サリア、こたえをなくす
その日の午後、トトラが小さなトラブルを起こした。
「それ、ポルカのつくったやつ!」
ミィナが声を上げる。
トトラの手には、キラキラと光る“しっぽ”の飾り──先日ポルカが作ったものと同じものが握られていた。
「ちょっとだけ、つけてみたかっただけ」
「かってにもってっちゃだめだよ!」
ポルカは泣かなかった。
でも、身体の輪郭がにじむように揺れていた。
止めに入ったのは、サリアだった。
「トトラ、それは“だめ”なことよ。わかっている?」
「う……でも……かえすもん」
トトラはしっぽをしゅんとさせ、しおれて黙りこんだ。
それからしばらく。
園庭のすみに、ぽつんと座るトトラと、沈黙するサリアの姿があった。
「──サリア先生、だいじょうぶ?」
後ろからそっと声をかけたのは、ゆかりだった。
「……はい。でも、正直、少し迷っています」
「迷って、いいんだよ」
サリアは、まっすぐゆかりを見た。
「“これはだめ”と伝えることは簡単です。けれど、その子がなぜそうしたのか、どう伝わるのか……私は、まだ“こたえ”を持っていません」
「……こたえを失ったってこと?」
「はい」
ゆかりは、少しだけ笑って答えた。
「じゃあ、今、はじめて“保育者”になったんだと思う」
「え……?」
「正しさじゃなくて、その子自身を見ることを選んだってことだから」
そのあとサリアは、トトラの横に座り直した。
「トトラ、きみは、“しっぽ”がきれいだと思った?」
「……うん」
「ポルカの気持ち、想像できる?」
「……こわい。なくしちゃったかとおもったら、かなしくなる」
「そっか」
沈黙。
でもそのあと、トトラはぽそっと言った。
「ごめん、ポルカ。かっこよくなりたかったんだ」
ポルカはそれを聞いて、小さくうなずいた。
「じゃあ、つぎは、いっしょにつくろ?」
*
その日の終わり。
サリアは、自分の記録欄に、こんな一文を記した。
こたえを失ったあとに、
目の前にいる“この子”が、私の指針になった。
トトラのしっぽには、ポルカと一緒に作った新しい飾りがついていた。
どこかちょっと、誇らしげに見えた。