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第12話 ミィナ、わらう

 朝。

 ミィナはいつもどおり、玄関でゆかりに一礼し、静かに園内に入っていった。


 言葉も少なく、感情の波をあまり表に出さない彼女は、他の子どもたちとも少し距離をとって過ごしていた。

 でもそれは、決して“冷たい”わけではない。

 ミィナの熱は、いつもからだの奥に静かにたぎっていた。




 この日、園では「音のあそび」がテーマだった。


 サリアが風の音を鳴らす枝を持ち、ルウが小さな風鈴を揺らし、ポルカが石を転がして音を重ねる。

 ミィナは、少し離れた場所からその様子を見つめていた。




 そのとき、トトラが一歩前に出て、木の棒で木の実を叩いた。

 カン、コン、トン。

 思ったよりも大きな音に、全員がちょっと驚く。


「ミィナも、やってみる?」


 ゆかりが声をかけると、ミィナは静かに首をふった。

 でも、その目はじっと木の実を見ていた。




 *


 午後、活動の時間が終わったあと。


 ミィナは、石を並べるあそびをしていた。

 その石のいくつかが、ほんのり赤く光っていた。


「あついの?」


「……ちょっとだけ。こころが、そわそわしてる」


「何があったの?」


「トトラの音、……ちょっと、おもしろかった」




 そのとき、風の中に小さな音が混じった。

 ポルカが転がしていた石が、ころん、とぶつかった音。


 その“音”をきっかけに、ミィナの口元がふっとゆるんだ。




「ミィナちゃん、いま、わらった?」


「……え?」


「すごく、いい顔してたよ」


 ミィナは驚いたような顔をして、そっと手でほおを触った。


「……わたし、わらってたの?」


「うん、すごくすてきだった」




 その日の終わり。


 夕方、玄関先でミュリエルがささやくように言った。


「“音”は、ことばじゃない。でも、ことばよりもずっと、こころの奥に届くことがある」


 ゆかりはうなずいて記録を開く。


 ひとつの音が、感情の窓を開くことがある。

 子どもたちは、ことば以外の方法で世界とつながる準備をしている。




 その日、ミィナは帰り際にひとことだけ言った。


「また、きてもいい?」


「もちろん。いつでも、待ってるよ」


 ミィナの髪先の赤が、やわらかく揺れた。



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