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第11話 キール、ほいくえんに行く

カナリア都市・中央庁舎。


民政局の青年役人キールは、机に積み上がった報告書に目を通していた。


──保育園、開園10日目。

──園児数:5名。

──保育従事者:4名。

──大きな事故・問題なし。


「事故なし……って書いてあるけど、あの子たち、全員“配慮対象児”なんだよな」


彼は資料を閉じて、立ち上がった。


「よし。自分の目で見に行こう」


 



その日、異世界保育園にスーツ姿のキールがやってきた。


玄関で靴を脱ぎながら、あちこちから視線を感じる。


ルウが屋根からひょこっと顔を出す。

トトラが廊下の隅で尻尾をふる。

ミィナが石の影からこちらを観察している。


「……お、おはようございます! 視察に来ました、キールです」


「あ、どうもどうも。みんな、ちょっと変わったお客さんだよー」


ゆかりが笑って、子どもたちに優しく伝える。


 


キールは保育室の隅に座り、活動を見守った。


ミュリエルは無言でポルカの塗り絵を見つめ、

シーは三方向から園庭の遊びを記録し、

サリアは不意の転倒に即時反応する距離感で立っている。


「これ……思ってたより、すごい」


口に出すつもりはなかったけれど、思わずこぼれた。


 



昼食前、キールはトトラと同じテーブルにつく。


「……キール、おとな?」


「そうだよ。ちょっと堅いおとなだけどね」


「せんせい、じゃないの?」


「先生じゃないけど……みんなが元気でいるか、心配する係、かな」


トトラはじっと彼を見つめて、言った。


「なら、“おおきい しんぱいのせんせい” だね」


 



帰りぎわ、キールはゆかりに話しかける。


「……すごいですね。ちゃんと、子どもたちが“ここにいていい”って顔してた」


「うん。“ここにいていい”って思える子どもは、ちゃんと“育つ”んです」


「施設って、そういう場所であるべきなんですね」


キールは手帳を開き、こう書いた。


“園児の成長は、施設の信頼で育まれる。

配慮が要る子どもたちだからこそ、安心できる環境が絶対に必要だ”


 


「また来てくださいね。次は、ぜひお昼一緒に食べましょう」


「……覚悟しておきます」


キールの帰り道は、少しだけ軽やかだった。



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