000話 「転生受付嬢、ここに参上」
「オルトさん、今日はどうされましたか?」
「この依頼書を頼む。」
「かしこまりました。少々お待ちください。」
鍛え抜かれた筋肉がはち切れんばかりと黒いチュニックを着ており、その布の影響あってピッチピチ。丸太のような腕には無数の傷跡が刻まれていて、顔には無精ひげが生えており、眼光は鋭い。
オルト・ユージン。
中堅の冒険者であり、こんな見た目だがギルドからの評判もよく、他の冒険者からの信頼も厚い。
新参の冒険者には少しキツく当たるが、それも彼の優しさを持ってのことだ。
俺はオルトさんから渡された依頼書を見るといつものように手際良く受注を済ませた。
このギルドエリクティス支部に来て早一年。
当初このギルドに入った時の感動は今でも忘れない。
まず飛び込んできたのは木の香りだった。壁も天井も頑丈な梁で組まれ、使い込まれた木材が落ち着いた雰囲気を醸し出している。
広々とした空間の中央には巨大な掲示板が鎮座し、そこには依頼書がぎっしりと貼り付けられていたのをよく覚えている。
カウンターの奥では、数人の受付嬢が忙しなく動いていて彼女たちは冒険者たちの話を聞き、依頼の受付や報酬の支払いを手際よくこなしていた。
カウンターの端には、依頼の報告を待つ冒険者たちが列を作っていた。
左手にはこれこそギルド! といった感じで酒場が併設されており、昼間から酒を煽る冒険者たちの笑い声が響いていた。
当初は行った時は驚きはしたものの、色々あって個々の受付嬢をすることになった。
この口ぶりから俺は元男の転生者だが、楽しくやっている。
この世界で生を受けて18年。
このギルドで受付嬢になり1年。
今まで多くの人と関わり、気づいたことがある。
それはーー
「おい、ばばぁ。この依頼早くしろ」
俺はギギッ、と首を回した。
俺は声の主を見る。
そこにはまだ年端もいかぬ少年いや、ガキがいた。
年の頃は十五、六といったところ。この世界の基準だとガキではないが、前世の俺の生きた分も合わせるとこいつはガキだ。
短く刈り込まれた髪に、精一杯の虚勢を張るような鋭い目つき。
このガキの名前はカイル。
こいつのことを一言で表すなら問題児という言葉が一番正しいだろう。
そしてこの年上にばばぁ。別に間違ってないと思うがなんだこいつ?
礼儀がなってない。
「なんだがきんちょ。次言ったらぶち殺すぞ。」
すると周囲がざわついた。
酒場の丸テーブルの方から威勢の張った声が聞こえた。
「おいカイル! 悪いことは言わねぇが、サリアちゃんを怒らすととんでもねぇことになるからやめとけ!」
「あぁ! なんかいったか!?」
俺の声が聞こえ、丸テーブルのおっさんの口が開こうとした時だ。
ギルドの扉が重々しく開いた。普段なら誰かが勢いよく押し開けて入ってくるものだが、今回は違う。
静かに、それでいて威圧感をもって、ゆっくりと開かれたのだ。
騒がしかった酒場が、一瞬にして静まり返った。ジョッキを片手に冗談を飛ばしていた大男も、依頼を吟味していたベテラン冒険者も、無意識のうちに動きを止め、入り口へと視線を向けた。
そこに立っていたのは、一人の青年だった。
歳は二十を超えたばかりだろうか。
金色の髪は手入れが行き届き、流れるような光沢を放っている。漆黒のロングコートを羽織り、胸元には王家の紋章を刻んだ銀のブローチが輝いていた。その姿は、ただの貴族ではない。
俺の口から無意識に言葉が漏れた。
「第一王子、レオナール殿下……っ」
瞬間、空気が張り詰める。
当たり前だろう。
王族がギルドを訪れるなど、滅多にないことなのだ。
それこそ、国の一大事の時などにしか。
それがよりによって第一王子――エリナクティス王国の次期国王ともなれば、尚更だ。
王子は静かにギルドの中を見回した。彼の青い瞳は氷のように冷たく、並みの冒険者なら目が合っただけで背筋が凍るほどの威圧感を放っている。
やがて、彼は俺のカウンターへと歩み寄り、静かに口を開いた。
「エリクティスギルド支部はここだろうか?」
その一言が、ギルドの空気をさらに凍りつかせてしまった。
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