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9話 懸念



【大魔王の館 『???』】



 恐らく地下……だろうか。



「ヘルラ? ヘルラはここにおるか?」



「はい? あっ、これは大魔王様! はい! ヘルラはこちらに。いかがなされましたか?」



 窓はなく、日の光も全く差し込まない。

 光源となるのは主に吊るされた大きなシャンデリアの灯り、手元を照らす為のカンテラの火、あとは管理している“材料”が放つ光くらい。



「ふむ……どうやら調べ物の途中だったようだな。すまぬな、作業中に呼び止めてしまって」


「いえ、とんでもございません。それよりもどうかされましたか。なにかお急ぎの用でも?」



 また空間のほとんどを本棚や収納庫、もしくは器具や資料の置かれた横長のテーブルが占領。

 さらに壁と床はともに石造りであり、天井の高さは大魔王(255 cm)も利用するためか7mほどと。そんなどこか冷気を感じる巨大な一室にて、



「いや、別に急ぎの用という訳ではない。ただ“進捗”を確認したいと思ってな、ちょうど案件が片付いたから様子見も兼ねて立ち寄ったのだ」



「なるほど、さようでございましたか」



 秘書ヘルラと大魔王は話していた。

 ヘルラは分厚い書物を抱えて、片や大魔王は片手に手籠(バスケット)と互いに何かを持ったままの状態で2人は近くのテーブルへと着く。




「して、どうだ? 進捗の方は」



「はい、順調に進んでおります。ただ――」



「どうした?」



「その……特に差し支えないのですが気になっている事が1点ありまして、もし大魔王様がいらっしゃったらお伺いしようと思っていたのです」



「ほほお? ならば丁度良いタイミングだったようだな。よし構わぬ、なんでも尋ねるがよい」



 ヘルラか、それとも他の魔族(同胞)か。

 いったい誰が散らかしたのか。大魔王は持っていた手籠を隣の椅子に置くと、卓上の資料を次々に手繰り寄せながら、彼女の質問を許可した。



「ありがとうございます。実はその……質問というのはミラ様の事でして、よろしいですか?」



「ふむ、勇者がどうかしたのか?」



「はい、その……率直に申しますと、聖薬草を“自分の物”にしたりするのではないかと。貴重な薬草ですし、我々魔族は勿論のこと普通の人間でも採取出来ぬ代物なので、もしかするとですが」



「続けてくれ」



 耳を傾けながら、ちょうど集め終える。

 そしてトントンと大魔王は集めた資料の束を揃えると傍に置き、ヘルラの方へと向き直す。



「はい。もしかすると採取した途端に気が変わり、クックロウをどうにか退けたうえで持ち逃げするのではないかと思ってしまい…………それで」



「ふむふむ、なるほど」



「ええ。ですが1つだけ先に申し上げますとワタクシめは決してミラ様を信用していないわけではございません。ですので魔が差すことなく戻るとワタクシも信じておりますが……一応は」



 どんな高潔な者でも時に過ちを犯すもの。

 責任ある大魔王の秘書として、どんな僅かな可能性でも油断せず起こり得るトラブルを予測せねばならない。ヘルラはそう主人へ明かす。



 対して、それを受けた大魔王は――




「フフッ……フッハッハッハッハッハ!」



「えっ、だ……大魔王様?」



「おっとすまぬ。しかし、なんだそのような事であったか! ならば案ずるな! そのような事態には決してならぬ! たとえ思い浮かんで悩んだとしても実行には至らぬ。我輩が保証してやろう、勇者は必ず戻ってくる! 必ずだ!」




 彼女以上に全幅の信頼を置いているらしく。

 大魔王はヘルラのそんな懸念に対して、大きな笑いと力強い言葉で吹き飛ばした。ミラは持ち逃げなどしない、絶対に目的を果たして戻ると。



「疑いは信頼を曇らせる。よって我輩達が今できるのは疑わずに待つこと! それだけだ!」



 彼はそう熱弁し、疑われたミラを庇った。

 まるでその熱き信頼を体現するようかの如く、真っ白な鎧にカンテラの火を反射させながら。



「かしこまりました! 大魔王様がそう仰られるのであればワタクシももう疑いません。勇者ミラ様が無事にお戻りになられる事を信じ、その時にすぐ動けるよう引き続き準備を整えます!」



 対して、ならば自分も同じくと。

 そんな自信満々の大魔王の返答に、ヘルラも大魔王がそこまで言うのであれば間違いない。ならば自分もそれに準ずるのみと決める。



「うむ! では我輩も手伝おうとしよう!」



「あ、いえ……それには及びません。これはワタクシが責任を持って為すべき任務。ましてや大魔王様のお手を煩わせるなどもってのほかです」



「いいや、お前はあまり無理をするな。従者たちから聞いたぞ? 勇者達が出発してから食事も摂らずにここで取り掛かっているとな。まだ時間の余裕はある、根を詰めるのはお前の悪い癖だ」



「で、ですが食事を摂っている暇など――」




 クキュルルウウ……クウゥゥゥ。




「あ、えっと……これは」



「フフッ、どうやら腹の虫は正直者らしい」



「も、申し訳ございません」



「我輩が持ってきたそこの手籠(バスケット)の中に飲み物と軽食を用意してある。気が向かぬならせめて少しでも良い、我輩に任せてお前は休むのだ。もし倒れられでもしたら大変だからな」



「はい、ありがとうございます」



「うむ! それでよい! とにかくこちらは準備を進めておくのだ、あの2人は必ず聖薬草を持ってここへ帰ってくる。我輩達はそれを信じて待つ。もちろん元気な姿でな、良いなヘルラ!?」



「はっ! 承知致しました!」



 そうヘルラは邪推を止めて大魔王が持ってきたバスケットを自分の元に置くと、彼の用意した食事を頬張るのだった。2人の帰還に備えて。



ここまで読んでくださりありがとうございます。

もし良ければブクマ・評価等していただけると幸いです(´▽`*)

次話は明日を予定しています。

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